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「所得の格差」と「意欲の格差」

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先日読んだ苅谷剛彦先生の『学力と階層』(朝日文庫)。

今後の社会では、「蓄積された知識」ではなく「学ぶ意欲」(=学習資本)が最も重要であるということ、そしてこの「学習資本」は家庭の文化的な階層によって明らかな格差があり、それが年々広がっているということが本著では主張されています。

経済格差が学力格差を生んでいる事実はCFCのWEBサイトでも紹介していますが、苅谷先生の主張の特徴は、努力する能力自体が、子どもの出身階層に深く影響される という点にあります。階層下位の子どもたちは、努力が成果に結びつかず、努力するだけ無駄だと感じている人が周囲に多く、努力することへの動機づけそのものに決定的な差があるというのです。

では、どうしたらよいか?というと、最近お会いした道中隆先生(関西国際大学教授)が繰り返し言われていたのが「自己効力感」に着目した支援です。


◆「自己効力感」とは

自己効力感(self-efficacy)とは、1977年にBanduraによって提唱された概念で、「ある特定の成果を生み出すために必要な一連の行動を体系化し、それを遂行する能力についての信念」と定義されています。

簡単に言うと、「ある事柄を自分はできると思う感覚」であり、先行研究では、自己効力感は、努力、忍耐力、思考様式、ストレス耐性などに影響を与え、業績・成績などの成果と正の相関関係にあることが明らかにされています(Bandura,1997、Judge et al.,2007など)。


◆「自己効力感」を高めるために必要な4つのこと

そして、この自己効力感は、次の4つの要因によって向上するとまとめられています(白岩航輔,2013)。

1. 成功体験

これは文字通り、過去に物事を上手く成し遂げた経験を指し、4つの中で最も効果的な方法であることもわかっています。しかし、自己効力感が確立する前に繰り返し失敗を続けることで低下しやすくなることや、たやすく成功する体験のみで作り上げられた自己効力感は脆弱になることもわかっています。

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2. 代理体験

これは他者の行動を観察することによって自己効力感に影響を与える経験です。大きく分けて2つあり、1つは「他者もできるのならば自分にもできるはず」というような自己説得を通じて向上する形、もう1つは他者との比較を通じて自分がより優れていることを認識することで向上する形です。

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3. 社会的説得

これは、ある活動に対して「遂行能力がある」というような奨励を他人から受けることを指します。当然ながら、この社会的説得はマイナスに作用する場合もあり、非現実的な奨励は効果があるとは言えません。

2褒める

4. 生理的・感情的状態

これは自己効力感が不安や疲労、ストレスといった生理的・感情的状態からも影響を受けることを表しています。したがって、精神的・身体的状態を良好に保つことも自己効力感を向上させる1つの要因と考えられています。

3意欲

そして、林(2012)によると、この自己効力感の生成にとって重要な時期は、3歳から4歳と思春期前後の2つであることも明らかになっています。


◆子どもたちに適切な支援を届けるための参考指標

現在、当法人に限らず多くの民間団体や自治体等で「子どもの貧困対策」が行われてきていますが、共通する課題は「対象の子どもの中で支援を受ける子どもが限られている」という点です。すなわち、意欲的な親や子どもにしかアクセスができないというのが実状です。

そこで、意欲が低く支援にアクセスができない子どもたちには、どのような時期にどのような支援を行うことが有効か、またどのような方法ならアクセス可能かを考えていかなければなりません。その中で、自己効力感という概念は、行動遂行につながることが実証されている点や、尺度があり効果測定が可能な点からも注目していきたいと考えています。(代表理事・奥野 慧)

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CFC活動説明会詳細

参考:
・池辺さやか、三國牧子(2014)「自己効力感研究の現状と今後の可能性」九州産業大学国際文化学部紀要,第57号 pp.159-174.
・苅谷剛彦(2012)『学力と階層』朝日文庫.
・白岩航輔(2013)「自己効力感の向上プロセスに関する研究-人事社員を対象にして」『神戸大学経営研究科修士論集』pp.1-89.
・林(2012)「私は何ができるのだろうか -自己効力(感)の生成と意義-(2)」青山経済論集 47【2】pp.109-136.
・Bandura, A.(1997)"Self-Efficacy: The Exercise of control", New York: W.H. Freeman and Company.
・Judge,T.A. et al(2007)"Self-Efficacy and Work-Related Performance: The Integral Role of Individual Differences",Journal of Applied Psychology, Vol.53, No.1, pp.23-37.