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社会関係資本(ソーシャルキャピタル)は子どもの貧困を解決する鍵になるのか?

子どもと大人が手をつなぐ

この1年くらい、CFC内では社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)という言葉をよく耳にするようになりました。その文脈は「学校外教育バウチャーの提供や大学生ボランティアの面談が、社会関係資本の獲得に寄与するのではないか。またその獲得は子どもの将来の自立にとって有益なのではないか。」といった点です。

◆社会関係資本(ソーシャルキャピタル)とは

そもそも社会関係資本について初めてまとまった説明をしたのは1972年のピエール・ブルデュー(フランスの社会学者)であると言われています。彼は人が持つ資本を経済資本、文化資本、社会関係資本の3つに分類し、社会関係資本を人脈と定義しました。

また、この資本を多く持つ人ほど、進学や就職において有利であり社会的地位も高くなることについて言及しています。そしてその後、米国の社会学者ジェームズ・コールマンによって、「信頼、つきあい、人間関係」など人と人の間に存在する資本と定義され、その概念が社会に広がっていった歴史があります。

◆子どもの貧困を解決する鍵になるか?

僕にとっては、歴史や概念より「本当に子どもの自立に有益なのか」という点が気になるので、全国学力・学習状況調査の結果を活用した調査の一環として実施された志水宏吉(2011)からその点を調べてみました。

色々とプロセスはあるものの、結論から言うと以下のとおりです。

ⅰ)「保護者の文化資本および社会関係資本は子どもの社会関係資本との関連が強かったが、経済資本と子どもの社会関係資本の間にはほとんど関連がみられなかった。」

ⅱ)「社会関係資本は人々の間に不平等に分配されているものの、経済的な豊かさは社会関係資本の豊かさとは基本的に関連がうすいようである。」

ⅲ)「社会関係資本には経済的資本や文化的資本とは独立した学力へのプラスの効果があること、その効果は所得が低いほど大きいということがわかった。」

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特にⅲ)の点は興味深く、子どもの貧困問題に取り組む当法人には有益な情報ではないかと感じています。しかも、本調査の中で結果が出ていますが「学校外教育支出」よりも「社会関係資本」の方が学力への影響力が大きいのは驚きの結果でした。ちなみに、最も高いのは「保護者の期待教育年数」であり、保護者の願望が子どもの学力を規定する最も重要な点として論じられています。

一方、著者も指摘するように、「社会関係資本には決定版といえる測定尺度がまだない」という点は気になります。本調査も保護者の社会関係資本を「配偶者との間で子育てや子どもの教育についてよく話をする、身近に子どもを預かってくれる人がいる」等と置いています。また、子どもの資本も「家の人と学校での出来事について話をする、住んでいる地域の行事に参加している」等と捉えて調査しています。

◆CFCの大学生ボランティアの意義

「本当にそのような点が、社会関係資本が豊かと定義できるのか。論理が逆で、学力が高い家庭の子どもほど、地域行事に参加したり、保護者と学校での出来事を話したりしているのではないか」という疑問も浮かびます。また、社会関係資本の獲得にはどんな体験や活動が必要なのかという点も不確かなので、更に詳細に調べていくことが必要だろうと感じています。

ともあれ、子どもの貧困に携わる団体として今後も注目していきたい概念であり、また支援者の皆様や大学生ボランティアの存在自体が子どもにプラスの影響を与えている可能性を示すことができる資本であるとも感じています。その点においても、今後もしっかりと調査や検証を重ねていきたいと思います。(奥野慧/代表理事)

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【参考】
・志水宏吉(2011)「(平成20年度追加分析(お茶の水女子大学委託研究))社会関係資本と学力」(2016.11.11確認)
・佐藤誠(2003)「社会資本とソーシャル・キャピタル」『立命館国際研究』16-1.