格差が遺伝する!―子どもの下流化を防ぐには(書籍紹介)
2013/05/20 コラム本著はべストセラーとなった著者の前著である「下流社会」の第二弾とも言える本です。前著から引き続き、サブタイトルに「下流」という言葉を著者は使っています。この「下流」という言葉は単に所得が低いことを意味するのではなく、勉強する意欲、働く意欲、生活する意欲、総じて人生全体への意欲が低いことも指しています。
◆「親の所得・学歴」の格差が子どもの「学力格差」につながっている
本著最大の特徴は小学2年生~6年生の子どもを持つ既婚女性1443名を対象とした大規模な調査結果から導き出された多くのデータを元に様々な視点から論じられている点です。
「所得格差」が「学力格差」を生んでいるという事実は統計データを元にしてこれまで明らかにされ、徐々に認知されるようになってきました。しかし、本著の中では「所得と子どもの学力の関係」からもう一歩踏み込んで、家庭の生活の質が子どもの学力や成長にどのような影響を与えるのかという点をクローズアップして分析がなされています。
例えば、「所得の高い家庭の子どものほうが栄養バランスの良い食事をとっている。」という分析が出ています。これは、高所得の家庭ほどデイタイムでの勤務が多く、時間的に余裕があるため、子どもにバランスの良い食事を提供できることに起因します。
また、「父親が土日休みの家庭の子どものほうが学力が高い。」という分析が出ており、学歴が大卒だと77%が土日休みであるのに対して高卒だと50%にとどまります。学歴が高い親のほうが子どもと過ごす時間が長い傾向にあることをこのデータは示しています。
さらに、旅行以外で親と子どもで行く場所について質問した調査では博物館・美術館に「よく行く・ときどき行く」と回答したのは、成績「上」の子どもでは42%、成績「下」の子どもになると18%といったデータも出ています。このように、文化的な資源に触れる機会の多い子どものほうが学力の高い傾向にあります(所得の高い家庭(=子どもの学力が高い)だからこそ文化的な資源に触れるための支出が可能になると考えることもできますが)。
これらのことからも、「親の所得・学歴」の格差が子どもたちの「生活の質」の格差を生み出し、その結果として子どもの「学力格差」が生じているとも考えられます。
著者は親の文化レベルや思考、生活習慣などが子どもに与える影響について丁寧に分析することで、子どもの下流化を防ぐにはどうすればよいのかという問いを読者に投げかけます。
そして、本著の最後で著者は自身の立場を明確にしています。
「格差が拡大し続けることは問題である。そして、さらに問題なのは格差が固定化し、親の格差が子どもに再生産されることである。」
この考えには私も共感します。生まれた時点でのスタートラインが家庭環境などによって大きく違っている現状を変え、すべての子どもが同じスタートラインにたてる社会の仕組みをつくる必要があると思います。
目に見えづらい「格差」に目を向け、各家庭間に歴然と存在する格差について考えるきっかけを与えてくれる一冊です。(雑賀雄太・代表理事)
▼本の詳細
・「格差が遺伝する!―子どもの下流化を防ぐには」(2007年5月、宝島社)
・著者:三浦 展
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