スタディクーポン、卒業生の今7
©平井慶祐
港で出会った夢。
いつか地元を支える
技術者になりたい
鈴木 知浩(24歳)仮名
Suzuki Tomohiro
岩手県宮古市出身。漁師の家庭で育つ。東日本大震災で親は失業し、自宅が全壊。高校卒業まで仮設住宅で生活する。5年間クーポンを利用し、東北にある大学の工学部に進学。現在、大学院で電気エネルギーシステムを専攻。
クーポン利用期間2011年12月〜2016年3月(中学2年から高校3年)
岩手県宮古市の漁師の家で育った。街の自慢は美しいリアス式海岸だ。5歳の頃、父に連れられて行った港で見た機械の迫力が今でも忘れられない。
魚を水揚げするクレーン、海水をくみあげるポンプ、ワカメをザルにあげるコンベヤ…。港で父の仕事を助ける機械に心が動く。いつしか、ものづくりに興味をもつようになっていた。
2011年3月11日。自宅は全壊し、父の船も流されてしまった。父は失業した。美しかった港は一面泥に覆われ、自分の好きな場所ではなくなっていた。「これからどうやって生きていくのだろうか」。漠然とした不安は日に日に大きくなっていった。
「辛さから逃げるための手段が勉強だった」。勉強をしている姿を見せると親も安心してくれた。過酷な現実から逃れ、明るい未来を叶える方法は、今勉強することだと思うようになっていった。クーポンによって、その環境が手に入ったことが大きかった。
大学は工学部に進学。1年の時に自作したFMラジオ搭載の車を見せてくれた。
センサーで黒線を認識してその上を走る仕組みだという。
ものづくりへの関心はその後もずっと変わらなかった。大学に進学し、今は大学院の学生だ。工学研究科で、馬やチーターのような四脚ロボットの研究に取り組んでいる。「この地球上を生き生きと走り回る動物たち。純粋にそんなロボットを作ってみたいです」
来春からは電機メーカーの技術者になる。港で使われる漁業用機械も作っている会社だ。「いつか地元で自分が手掛けたものが役立つ姿を見たい」。あの頃描いた夢に向かって歩み続けていく。