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子どもの貧困連鎖(書籍紹介)

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今回は、「子どもの貧困」の当事者を追った、ルポのご紹介です。

これまでもコラムなどで何度か触れてきましたが、海外の絶対的貧困に比べて、日本の相対的貧困は目に見えにくいものです。加えて、メディア関係者が当事者(特に子ども)と時間をかけて信頼関係を築き、身の上の話を詳しく聞くことは難しく、貧困の実態はより一層社会の表面に出にくいものだと思います。

そんな中、この本では、高校、中学校、小学校、保育の現場にいる、子どもたちや、彼・彼女らの事情を知る人への取材に成功しています。また、各ケースについて、家庭の事情も詳しく記載されているので、親から子に貧困が連鎖する過程がリアルに見えてくる本です。

◆貧困は、誰のせい?

この本を読んで改めて感じたのは、「貧困は当事者に問題があるからだ」という見方は、よくよく考えてみる必要があるということです。例えば、本著で紹介されている「陽子」は、夜間定時制高校に通う高校生です。アルバイトを3つ掛け持ちし、都内で一人暮らしをしています。

これだけ聞くと、「高校生が一人暮らしをするなんて贅沢だ。家賃のためにアルバイトをするなんて自業自得。親と一緒に住めば経済的に余裕も出るんじゃないか。」と思う方もいらっしゃると思います。ですが、その背景は複雑です。

陽子の親は自営業で、ビジネスに失敗し、多額の借金を背負っています。また、陽子は中学生のころに貧乏が理由でいじめられ、自殺を図ったことがあったり、いじめのストレスで問題を起こし、父親から暴力を受けたことがあります。次第に、陽子は部屋が一つしかない小さな家で、家族と同居することが苦痛になり、アパートで一人暮らしを始めたそうです。

おそらくこの状況を聞けば、陽子を責める人は少なくなるのではないかと思います。

◆セーフティネットからこぼれ落ちる子どもたち

「生活保護や就学援助を受ければいいのでは?」
「生活が厳しくても、アルバイトをすればどうにか過ごせるのでは?」
「高校生が携帯電話を持っているなんて贅沢じゃないか?」
「アルバイトで体調を崩すなんて大したことないだろう。甘えではないか?」
「体調を崩したって、病院に行って治せばいい話ではないか?」
「そもそも高校って無償なんじゃないの?」

こういった「普通の感覚」は、この本によって全て打ち砕かれます。私たちは、社会にセーフティーネットがあることを知っていますが、そこからこぼれ落ちる理由は、意外にたくさんあり、一般にはあまり知られていないように思います。

CFCの活動に共感し、ご支援くださっている方には少ないかと思いますが、もし「貧困は当事者に問題があるからだ」と思っている方に出会うことがあれば、ぜひこの本をご紹介していただければと思います。(山本雅・広報チームマネージャー)

▼本の詳細
・「子どもの貧困連鎖」(2015年5月、新潮社)

・著者:保坂 渉(1954年(昭和29年)山梨県生まれ。1979年に共同通信社入社。社会部を経て、編集委員室編集委員。他の著書に『虐待』、『迷宮の少女たち』などがある。)、池谷 孝司(1965年(昭和40年)奈良県生まれ。1988年に共同通信社入社。松江支局、広島支局、大阪社会部、本社社会部次長を経て宮崎支局長。他の著書に『死刑でいいです』(真下周との編著)、『スクールセクハラ』などがある。)

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