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暴れちゃう子でも小さい子がいても、誰もが音楽と親しめる場を。東京都墨田区「る・みゅう音楽教室」加古文子先生

子どもの体験奨学金事業「ハロカル」では、スポーツや文化芸術、キャンプなど、子どもたちが「やってみたい!」と思う体験活動に参加できるように「体験奨学金」を提供します。「体験奨学金」の利用先は、主に地域に根差して活動するスポーツクラブやスポーツチーム、音楽やアートなどの教室です。

「ハロカル」は、奨学金を提供するのにとどまらず、子どもたちが体験を通じて地域の大人と出会うきっかけを作るとともに、子どもたちのことを一緒に見守ってくれる地域の大人を増やしていくことを目指す事業です。

そのため、「ハロカル」の理念に共感し、子どもたちをともに見守って下さる教室やクラブの先生方との関係性を大切にしながら、深く連携をしていくことが欠かせません。

現在、CFCの本部がある墨田区を中心に展開している「ハロカル東東京」では、墨田区や江東区をはじめ、地域に根差して活動している60以上の教室やクラブ、団体に「体験奨学金」の利用先として参画いただいています。

今回ご紹介するのは、幼少期から墨田区で生まれ育ち、現在も両国でピアノやオーボエの教室を開いている「る・みゅう音楽教室」の加古文子先生です。

「ハロカルは、私の夢そのもの」とおっしゃってくださった加古先生。そんな先生に、ご自身の音楽との出会いや教室で大切にしていること、ハロカルへの想いなどを伺いました。

(聞き手:今井悠介 執筆:内藤日香里)

目次
■「何か、食べて行けるものにしてくれ」父の一言がきっかけで始めたオーボエ
■発達障害のある我が子がきっかけで始めた「どんな子も心地よく通える音楽教室」
■ピアノの下で大の字になる子、発表会に出たくない子。どんな子にもそれぞれの輝き方がある
■子どもたちが希望を持って生きていける世の中を、私たち大人が残していきたい

■「何か、食べて行けるものにしてくれ」父の一言がきっかけで始めたオーボエ

ー先生が最初に音楽と出会ったのはいつ頃でしたか?

小学校1年生の時の文集には「大きくなったら音楽の先生に」と文集にかいていたので、その前からですね。幼少期に通っていた幼稚園がこの教室の近くにあって、放課後にピアノ教室をやっていたので、そこに通っていました。

オーボエとの出会いは中学校1年生のときでした。中学受験をするために小学校高学年で一度ピアノを辞めたんですが、受験が終わって中学に入ったときに、父にもう一度ピアノを続けたいと言ったんですね。そうしたら父から「お前はピアノがそんなに上手じゃないから、もうちょっと何か、食べて行けるものにしてくれ」って言われて(笑)

ピアノがだめならどうしようかなと思っていたところ、ラジオで流れてきたオーボエの音色がすごく心に刺さって、じゃあ私はオーボエにしようと。それで、NHK交響楽団をリタイアした方に紹介していただいた先生のもとで習いはじめました。

ー先生にとっての音楽の魅力や、それを仕事にしたいと思ったきっかけはありましたか?

本当に気がついたときから音楽が好きでしたね。かといって、テレビに出てくるような天才少年天才少女というのでは全くなかったんですけど、本当にただ音楽が好きで、今に至っています。

■発達障害のある我が子がきっかけで始めた「どんな子も心地よく通える音楽教室」

ー音楽がずっと好きで、そのまま自然と今のお仕事に結びついたんですね。今のお教室を開いたきっかけは何だったのでしょうか?

2012年にこの教室を始めました。その前から個人として音楽学校の受験生やインターナショナルスクールの生徒さんを中心に教えていたんですけど、子どもの出産を機にお休みしていたんです。

出産後、わが子と接する中で、色々な方に垣根なく音楽を知っていただいて、一緒に楽しんでいただきたいなとの思いが強くなりました。

というのも、上の子どもが発達障害を抱えていまして。幼少期にはタップダンス教室とかいろんな教室に行ってみたんですけど、どれも暴れてしまって。周りの方にも迷惑をかけてしまうし、本人も嫌だと言うし、まだ小さい下の子を抱っこしながら見学に行くと、やっぱり自分たちの居場所がないなと感じることもあったりして。

そんなこともあって、うちみたいに暴れちゃう子や小さい子がいても通いやすい教室があればいいなと思ったんですよね。それで、自分で実現してみようかなと。だからうちの教室は、妊婦さんでも赤ちゃんでも、元気のいい子でもおとなしい子でも、どんな子でも心地よく通える場所になればいいなと思って始めました。

現在教室に通っているのは小学生の子どもたちが多いですが、年齢は幅広く、1歳から75歳まで幅広い年代の方が通ってくださっています。

ーどんな子でも心地よく通えるように。そんな願いで始められた教室で、先生は様々なお子さんを見てこられたんですね。

教室にも発達障害のあるお子さんをはじめ、本当にいろいろな子がいます。でも、私自身も含めて個性豊かであるはずだし、そうあっていいと思いますし、子どもたちが個性豊かなことはうれしいことですよね。その個性をどう伸ばそうかな、その子のどんなところが光っているのかなと考えるのは、すごく楽しいしワクワクします。

一方で、この教室を通して、いろんな親御さんの不安にも触れてきました。発達障害のある子であっても、一見すると特に課題を抱えていないように見える子であっても、やっぱり誰もが大変な想いをしているんだなと、お母さま方と接していると感じます。

でも私は、みんな同じよ、差はないんだよ、と伝えたいです。子育てに差はないし、子どもにも差はなく、みんな一生懸命生きている。だから誰もが豊かな人生を送っていくために、音楽を通して、生きる強い力を育んでほしいなというのが、私がこの教室に込めた願いです。

■ピアノの下で大の字になる子、発表会に出たくない子。どんな子にもそれぞれの輝き方がある

ー先生ご自身も悩みを抱えてきたご経験があるからこそ、この教室がお子さんも親御さんも安心できる場になっているのだろうなと感じさせられます。普段のレッスンでお子さんと接する中で、先生が大切にされていることはありますか?

30分という限られた時間の中で、(子どもたちには)元気になって帰ってもらうことを大事にしています。

教室に入ってくる子どもたちの顔を見ると、パッと見て学校で何かあったのかなとか、今日はちょっと体調が悪いのかなとか、いろいろと気づくことがあります。まずはその子たちが1日かけて背負ってきたものを全部おろすところから始めようかなと。教室に入ってすぐにレッスンを始めよう!となる子の方が少ないぐらいです。

限られた30分の間に何とかピアノの成果を上げたいというのはあるんですが、まずは今背負っているものを吐き出すために喋りたい子もいるし、自分からは言えないけど察して欲しいという子もいっぱいいるので。

教室に来るときはちょっと泣いていたとしても、嫌なことがあったとしても、終わるときにはやっぱり笑顔で帰ってほしいので、まずはいろいろ背負ってくるものをおろしてもらって、その上でレッスンに入ってもらうようにしていますね。

ー子どもたちが元気になって帰れる教室、素敵だなと思います。教室を運営される中で、印象に残っているお子さんのエピソードなどはありますか?

レッスンをしている子の中で、教室には来るのだけど、いつもピアノの下で大の字に寝ていて出てこない子がいたんですよね(笑)さすがに私もちょっと申し訳ないかなと思って親御さんにお話したんですけど、お父さまがいつもにこやかで「それでいいんです」って。

そのまま3年くらいずっとそんな感じだったんですけど、その子が小学校に入ってから、なんかコンクールで上位入賞して。それまで私もいいのかなとちょっと自信がなかったんですけど、(その子の姿から)やっぱりそういうのって大事だなって学びましたね。年単位で見守るってなかなか難しいですけど、待ち続けるって大事だなって。

あと、ピアノも音楽も好きだけど、発表会は嫌いという子もいっぱいいます。先日も、発表会で出る出ないですごくご家庭で揉めた子がいたんですね。結局その子は出ないことになったんですけど、絵が好きな子だったので、発表会のプログラムにイラストを描いてくれないかと声をかけたら、すごく喜んで。そこで私は輝いていいの!なんて言って下さって。

やっぱり教室に来てくださっているからには、最初は音楽を通してですけど、そこから(音楽に限らず)その子の才能に気づいて輝かせてあげることがすごく重要なのかなって。

その子はどんな輝き方をしたいのかなっていうのを、その子の側に立ってあげて、一緒に考えていきたいなと思いますね。


(レッスンを行う部屋の隣には、子どもたちが自由に遊んだり寝転んだりできるような空間も。同じ幼稚園の子どもたち同士でお弁当を持ってやってきて、交代交代でレッスンを受けることもあるのだとか。)

■子どもたちが希望を持って生きていける世の中を、私たち大人が残していきたい

ー先生が教室で大切にされていることが、すごく伝わってくるエピソードだなと思いました。そんな加古先生が、ハロカルに参加しようと思っていただいた理由をお聞かせいただけないでしょうか?

それはもう、(ハロカルは)私が今まで本当にやりたかったことだからです。どんな環境下にある子どもたちでも、音楽をはじめいろんな体験に触れる機会を持てたらと、これまでずっと思ってきました。

私は3年間フランスに留学していたことがあるんですけど、フランスでは学費が無料なので、子どもたちは(学校外で)自分の好きなところにどこにでも通えるチャンスがあります。けれど、日本はやっぱりそうはいかないじゃないですか。それを思うと、子どもたちが好きなことと出会えるようにして、一人ひとりが持つ隠れた原石を輝かせてあげたいなと。

なので、若い方たちがこうした活動をされているのは、本当に素晴らしいなと嬉しくなりました。まさに私の夢を叶えてくださっているという感じです。

ー夢を叶えてくれた、そのようにおっしゃっていただきこちらこそありがとうございます…!最後に、加古先生の今後の抱負をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

子どもたちは、これから日本を、世界を作っていく人たちなので、健やかに、力強く生きててほしいなって思います。希望を持って、自分を必要とされる人間だと思ってほしいし、生きていきたいって思う世の中であってほしい。そういう世の中を、大人の私たちがやっぱり残していきたいですよね。


(右はCFCの今井。素敵な教室にお邪魔させていただきありがとうございました!)

ご自身も子育てや人生についてたくさん悩んでこられたという加古先生。そんな加古先生のまなざしや言葉の端々から「誰でも垣根なく音楽に親しんでほしい、そして子どもたち一人ひとりが持つ輝きを一緒に探していきたい」という想いが伝わってきました。

そんな先生の教室では「通っているお子さんがいつの間にか仲良くなったり、保護者同士の交流が自然と生まれたり」するのだとか。

私たちも、普段子どもたちがレッスンを受けるお部屋でお話をお聞かせいただきましたが、ずっとここにいたくなってしまうような、そしてここにいていいんだと感じさせてくれるような、そんな心地のよい空間でした。

こうした素敵な「場」を作ってくださる先生方との繋がりが「ハロカル」を地域で広げていくうえでとても大切なことを、加古先生のお話をお伺いして改めて感じました。

子どもたちが「やってみたい!」と思う体験を通じて、地域で体験活動を担う先生方と出会うきっかけを作れるような事業を目指して、引き続き「ハロカル」に取り組んでいきたいと思います。

子どもの「体験格差」をなくすため、ご支援をお願いいたします!

CFCの調査では、低所得家庭の子どもの3人に1人が過去1年間、学校外での体験活動が何もなかったと回答しています。CFCでは、経済困窮家庭の小学生がスポーツや音楽、キャンプなどに参加できるよう、「子どもの体験奨学金」を提供しています。体験格差をなくすため、どうか皆さまのご支援をお願いいたします。

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