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「子どもの貧困」対策先進国での取り組みとは?~イギリス編~

イギリス

日本の子どもの貧困対策案を考えるうえで、よく模範とされるのがイギリスの政策です。

イギリスでは、ブレア元首相が99年に「2020年までに子どもの貧困を撲滅する」と宣言して以降、政府は多くの対策を打ち出し、毎年政府がその実績を公表しています。

◆約10年間で子どもの貧困率の減少に成功

ブレア政権が誕生した97年から10年までの変化を見ると、子どもの貧困率は26%から18%へ約3割低下。

特にひとり親世帯の子どもの貧困率は49%から22%へと約5割低下しています。(※英国は日本より広く貧困層を捉えて貧困率を算出しているため数値が高い)

しかし、イギリスの政策もすべてが順調というわけではなく、近年の財政難から貧困対策にも陰りが見え始め、10年に発足した保守党・自由民主党の連立政権は、社会保障費削減を打ち出しているため、今後貧困率は悪化するという研究機関の試算もあります。

ただ、日本との大きな違いは、10年に成立した子どもの貧困法で数値目標を明記している点や、政府は対策の進行状況を毎年国会に報告し、目標達成のための戦略を3年ごとに策定すること等が義務付けられている点です。

また、社会保障給付の見直しを行いつつも教育関係予算は削減しておらず、対策が確実に行われています。

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◆イギリスでの取り組み

ここでは、中でも面白い取り組みをご紹介します。

1.児童特別補助(貧困の児童数に応じて学校に出される補助金)※1

まず、親が無職か低収入の児童数に応じて学校に補助金を出す、「児童特別補助」という制度。

学校はこの資金を使い、指導員を増やし、放課後学習支援や始業前に朝食を出す「朝食クラブ」という取り組みを行ったりしています。

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2.児童信託基金(子どもが18歳になると引き出せる資産型の経済支援)※2

現在は廃止されましたが、ブレア政権時代のユニークなものが「児童信託基金」という制度です。

これは資産ベースの経済支援で、親が子ども名義の口座を作れば政府から一時金が振り込まれ、その後は子どものための貯金口座として使われます。

一定額までは利子が非課税となり、この口座の資金は子どもが18歳になるまでは引き出すことができないため、18歳以降の高等教育や職業訓練等に活用されます。

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3.タックスクレジット(子どものいる低所得世帯や親が就労している低所得世帯への現金給付)※3

現金給付による支援で、日本のような児童手当の他に、納税額が一定基準を下回る16歳未満の子どもをもつ親に、年額約9万円の基本額と子ども1人につき最高40万円程度を給付する「児童タックスクレジット」。

低所得者の働いている親に年額約33万円の基本額、その他ひとり親には最高34万円を給付する「就労タックスクレジット」があります。

そして、現在は「ユニバーサルクレジット」という名称で、児童タックスクレジット、就労タックスクレジット、求職手当、所得補助など6種類を統合した低所得者向けの新しい制度ができています。

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このようにイギリスの経済支援は、給付額の大きさも然ることながら、就労タックスクレジットのように働くことにインセンティブをおくことで就労意欲を失わせない仕掛けや、制度の複雑化を解消し、確実に支援を届けるために制度を統合化した点など、非常に優れた面が多いと感じます。

日本は、子どもの貧困対策においては発展途上国です。イギリスに限らず様々な国の制度を参考にしながら、効果的な仕組みを作っていかなければなりません。(代表理事・奥野慧)

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【参考】
※1 下夷 美幸「イギリスにおける養育費政策の変容」(『大原社会問題研究所雑誌』No.649、2012年)
※2 下野新聞「希望って何ですか?貧困の中の子ども」第6章『英国の挑戦』「<4>教育 「将来への投資」浸透」(2014年6月18日)
※3 平部 康子「イギリスにおける社会保障給付と財源の統合化(『海外社会保障研究』No.179、2012年)