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世界地図の下書き(書籍紹介)

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先日、とある子ども支援団体のボランティア日誌を拝見した時、本著を引用した、こんな文章を見つけました。

「『世界地図の下書き』という本を読んでいると、『たまに、自分たちが生きていくためには自分の力ではどうしようもないところからの支えが必要なのだと実感するときがある』という一文を見つけました。ここでの日々の活動の中で、先生方やスタッフさん方が『どうしようもないところからの支え』となって子どもたちの自立を支えているように感じます。」

この文章が、僕が本著を手にとったきっかけでした。

本著は、小3の太輔が小6になるまでを描いた物語で、施設で出会った4人の仲間との交流や子どもたちの葛藤を丁寧に描いています。

◆「生きる場所を変える」

夏の祭事「蛍祭り」で小さな紙製のランタンに願いを込めて空に上げる「ランタン飛ばし」が行われていたとある町が話の舞台です。小6の太輔は、小3のときに両親を交通事故で亡くし、引き取られた伯父、伯母とも折り合わず、児童養護施設「青葉おひさまの家」で暮らすことになりました。親の離婚でやってきた6歳年上の佐緒里や、事情を抱える同い年の淳也とその妹の麻利、少し大人びている小2の美保子。この仲間たちと暮らし、太輔は閉ざした心を開いていきます。いじめや運命に翻弄されながらも団結して耐え、太輔たちは、途絶えた「ランタン飛ばし」を復活させようとある作戦を考えていきます。

この作品は、施設で暮らす子どもたちの過酷な現状だけを描いているわけではなく、かと言って、ただのハッピーエンドのストーリーでもありません。子どもたちの視点でその心情をリアルに描き、その中にファンタジーならではのストーリー展開や美しい描写が散りばめられています。そして、個人的にとても共感したのが、子どもたちが最後にとる「今の道から逃げる」という行動です。

ただの逃避ではなく、逃げた先にも困難があることをどこかわかったうえでその選択をすることは、いじめや体罰などの過酷な現状の中で生きる子どもたちに必要な選択肢なのではないかと感じます。作者は、この選択を「生きる場所を変える」と表現しています。子どもたちが、なぜ最悪の選択をする前に「逃げる」という道を選べなかったのか。そんな作者のメッセージを感じとれるこの物語は、子どもに関わるすべての人に読んでほしい作品です。

▼本の詳細
・「世界地図の下書き」(2013年7月、集英社)

・著者:朝井 リョウ
1989年5月生まれ、岐阜県出身。2009年「桐島、部活やめるってよ」で第22回小説すばる新人賞(集英社)を受賞しデビュー。12年に同作が映画化され、注目を集める。また、同年『もういちど生まれる』で第147回直木賞候補に。13年『何者』で第148回直木賞を受賞。

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