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子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗りこえるための発達心理学(書籍紹介)

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◆10歳前後の子どもの変化は、道徳性や社会性、感情や友人関係等、多岐に渡る

本著は、近年子どもの学力をめぐって散見する「10歳の壁」という言葉は、エビデンス(科学的根拠)に基づいた見解ではないという話しから始まり、第一章は、その説明に終始します。しかし、著者の専門領域である発達心理学においては、この年齢における興味深い変化が確認されており、第二章からは、その点について詳細に記しています。

興味深い事例を2つご紹介します。1つ目は、自尊心の変化で、ローゼンバーグの調査では、8歳~12歳にかけて自尊心が低下することを報告しています。これは、「認知的コンピテンス(潜在能力)」の発達によるもので、例えば、「自分は運動は得意だが、算数は苦手」などのように、領域別に得意不得意を判別できるようになり、自分の不得意な部分も認識し始めるためと考えられています。つまり、我々大人が安易な評価や励ましをすると、逆に子どもの不信感につながってしまう可能性があります。

2つ目は、認知の変化で、系列化ができる、創造性が豊かになる、時間の流れが理解できる等の論理的思考力が発達することが確認されています。例えば、「クラス30人が背の順に並ぶことができる(系列化ができる)」ようになるのは、9歳10歳頃と言われています。しかし、「A>B、B>C、ゆえにA>C」というような要素間の関係を推測する力は発達段階にあり、11歳以降にならないと理解が難しいようです。

この他にも道徳性や社会性、感情や友人関係等、本著では10歳前後の子どもの変化について、エビデンスをもとに紹介しています。以前のメルマガでもご紹介しましたが、この年齢は、教育格差が顕著になる時期でもあります。そして、その背景にはこのような子どもの発達における重要な変化があると考えられます。そして著者は、このような変化が、生物的に備わっているものと、周りの大人が支援して促していかなければならないものに分かれると指摘しています。特に社会性や道徳性の成長は、親や教育関係者が促すべきものと論じており、その具体的な方法も本著で紹介していますので、参考にしてみてください。

最後に、本著にもある例題を一つご紹介します。「Aは、台所でふざけていてお皿を1枚割ってしまいました。Bは、お母さんの手伝いをしていてお皿を3枚割ってしまいました。どちらが悪い?」というものです。この例は極端ですが、著者は、子どもに対して「何を壊した」とか「どれくらい壊した」という客観的な量によって叱るのではなく、「どうして壊してしまったのか」とか「それによって相手にどんな迷惑が掛かるのか」という動機や理由に目を向けさせることが大切だと主張しています。本著では、10歳前後の子どもの特徴を紹介するだけでなく、このような例題を通して、子どもとの関わり方についても言及していますので、教育関係者のみならず、子どもをもつ親やこれから子どもをもつ年齢の方にもおすすめの一冊です。

▼本の詳細
・「子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗りこえるための発達心理学」(2011年4月、光文社)

・著者:渡辺 弥生
大阪府生まれ。1983年筑波大学卒業。同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだ後、筑波大学、静岡大学、途中ハーバード大学客員研究員を経て、法政大学文学部心理学科教授。同大学大学院ライフスキル教育研究所所長兼務。教育学博士。専門は、発達心理学、発達臨床心理学。(本データはこの書籍が刊行された当時のもの)

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