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非認知能力と子どもの貧困-幼児期の環境で子どもの将来は決まってしまうのか?

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◆幼児教育が重要と言われるきっかけとなった「ペリー就学前計画」

1960年代にアメリカで行われたぺリー就学前計画という有名な調査があります。

この調査は、3~4歳児のアフリカ系アメリカ人に対して2年間にわたり、

(1)学校教育(平日午前2.5時間、教師1人に対して幼児5.7人)
(2)教師による家庭訪問(週1回1.5時間)
(3)親を対象とする少人数グループミーティング(毎月)

など、質の高い幼児教育プログラムを行い、これに参加した子どもと就学前教育を受けなかった同じような経済的境遇にある子どもを比較した調査で、約40年間にわたって追跡調査が行われました。

そしてその結果は、有意な差となって表れ、この教育を受けた子どもは、就学後の学力の伸びが見られ、40歳になった時点で比較したところ、高校卒業率や持ち家率、平均所得がより高く、婚外子を持つ比率や生活保護受給率、逮捕者率がより低いという結果が出ました。

そして更に注目すべき点は、就学前教育を受けた子どもの間で学習意欲の伸びが顕著だった点です。一方で子どものIQを高める効果は、小さいことも明らかになっています。

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◆幼児期の教育で将来は決まってしまうのか?

この調査を分析したシカゴ大学のジェームズ・ヘックマンらは、IQなどの「認知能力」だけでなく、学習意欲や労働意欲、努力や忍耐などの「非認知能力」が進学や賃金水準の決定に寄与することを明らかにしています。そして、非認知能力の重要な決定要因の一つが「幼少期の家庭環境」であると分析しています。

これらの調査結果を見ると、「幼児期でほとんどが決まってしまうのか?」そんなことを感じてしまいます。しかし、非認知能力の形成時期に関する調査によると、認知能力は8歳までにかなり開発される一方、非認知能力は10代後半でも鍛えられると言われています(Heckman, 2000)。

また、幼少期の家庭環境だけでなく、課外活動(特に運動系・学術系クラブ)が発達に大きく寄与するという研究もある他(戸田他, 2013)、年長者によるメンタリングプログラムなどが非認知能力を高める効果があることもヘックマンが明らかにしています(川口大司,2006)。CFCのバウチャーが教科学習だけでなく、文化・スポーツ教室等でも利用できることや、ブラシス制度を行っていることにはこのような非認知能力を養う意味合いがあります。

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◆まだ明らかになっていない点

ただし、非認知能力の向上は認知能力の発達を促すが、その逆(認知能力の向上が非認知能力の発達を促すか)はわからないという研究結果が多いことも事実です。そして、認知能力の開発時期のピークが6~7歳と8~9歳ということ、認知能力が学歴等に大きな影響を与えるということを考えると、早い段階において非認知能力を高めることが重要であるのは間違いありません。

しかし、ここで忘れてはいけない点として、効果の持続性があると考えます。ペリー就学前計画では40年間の追跡調査を行っていますが、就学前に支援をした子の就学後からの学習環境には触れられていません。

また、非認知能力が10代後半でも向上するということは、当然その逆に低下するということも十分に考えられます。それらを踏まえたうえで、どの年代にどんな支援をしていくのが効果的なのかを検証していかなければなりません

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◆今後必要な子どもの貧困への支援

現在の子どもの貧困に関する多くの取り組みは、認知能力に焦点をあてたものが多く、かつ非認知能力がある程度備わっている子どもを対象としています(そもそも支援を受けようと思わない子には支援をできないという現状があるのも事実です)。

そして彼ら彼女らに必要なものは、多くの場合、経済的な支援であり、その点では奨学金や無償学習支援、バウチャー給付などの施策が非常に有効であると考えられます。

一方、これらの経済的支援を行っている団体で共通する課題は、そもそも支援を受けにこない低意欲の子どもたちへのアプローチです。そしてこの分野については、今後更に「非認知能力」にスポットをあてた支援が必要になると感じています。(代表理事・奥野慧)

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【参考】
・戸田淳仁・鶴光太郎・久米功一(2013)「幼少期の家庭環境,非認知能力が学歴,雇用形態,賃金に与える影響」RIETI Discussion Paper:14-J-019.

・内閣官房(2013年3月25日)「幼児教育の無償化について」2016年7月11日アクセス.

・川口大司(2006年6月27日)「書評 James J. Heckman and Alan Krueger, Inequality in America: What Role for Human Capital Policies?, Cambridge, Massachusetts: the MIT Press, 2003, 370 pages.(書名の日本語訳: アメリカの不平等: 人的資本政策の役割は何か?)」『経済研究』Vol. 57, No. 2, July 2006.

・Heckman, J.(2000)"Policies to foster human capital", Research in Economics, vol.54(1),pp.3-56.