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新しい「教育格差」(書籍紹介)

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日本では、他の先進諸国と比較して教育費の私費負担が大きく、中でも塾や習い事等の学校外教育に対する支出割合が高いため、所得格差による教育格差が生まれています。学校外教育格差の問題解決は子どもの貧困問題を解決するうえで、最重要課題だと認識しています。

今回は少し視野を広げて、日本で起こっている様々な教育格差について書かれている本をご紹介します。著者は自身の学校現場での経験や取材での事例を交えながら、自治体の財源の違いによる教育格差、男女間の教育格差、教員間の格差等、日本における教育格差の問題を様々な角度から論じています。

◆日本では様々なところで教育格差が生じている

例えば、著者は中高一貫校が生み出した「学校間の格差」について指摘しています。

「ゆとり教育」に対する学力低下への懸念から、「子どもは私立中学に通わせたい」と思う保護者が増加しているそうです。2009年の東京、神奈川、千葉、埼玉の中学受験者は6万4200人。首都圏の小学生の5人に1人が中学受験に臨んでいます。

しかしながら、私立中学への進学は経済的負担が大きい。そういった事情により、経済的な負担が少なく、充実した教育を受けることができる「公立の中高一貫校」が注目されています。公立中高一貫校の入試倍率は7~8倍、中には10倍という学校もあり、有名私立中学と肩を並べる人気です。

公立中高一貫校は、学習内容を独自に編成して、どの学年で何を教えるかということを学校側が自由に決めることができます。よって、普通の公立学校よりも充実した教育カリキュラムを組むことができます。そして何よりも充実した教育内容にもかかわらず「経済的負担が少ない」ことが最大の特徴です。授業料は普通の公立学校と同額。受験料もおよそ2300円程度です(私立は1校につき1万~3万円程度)。

一見、「公立中高一貫校の存在は、私立-公立間の教育格差是正の切り札になるのではないか?」と思われます。しかし、現実的には公立中高一貫校を整備している自治体はまだまだ多くないため、そのような学校に通える子どもは全国的にみれば、一部の子どもだけあり、新たな教育格差が生まれていると著者は指摘しています。

また、公立中高一貫校の受験に「適性検査」をクリアしなければなりません。この適性検査は、通常の学力テスト「自分の身につけた知識をどれくらい実生活で活かすことができるか?」を測る問題が多いとのことです(OECD国際的な生徒の学習到達度調査「PISA」の出題内容とよく似ています)。

私も実際に適性検査の過去問を見てみましたが、学校の授業で扱うような内容ではなく、また単に知識があるだけでクリアできる問題ではなさそうです。結局は公立中高一貫校の受験をパスするには、塾や通信学習等で特別な対策をする必要があるようです。

実際に前職の学習塾関係の仕事の中でも、多くの子どもが小4・5年生くらいから進学塾に通って受験対策をしている姿を見てきました。学校外教育に対して十分な支出をできるか否かは、ここでも重要なポイントになることがわかります。

私自身、本書を通じて、改めて日本では様々なところで教育格差が生じていることを認識しました。決して一つの方法だけで解決できるものではなく、それぞれの課題に対して適切な解決策を打ち出していかなければなりません。

日本の教育格差の問題を色々な角度から考えてみたい方にはお勧めの一冊です。(今井悠介・代表理事)

▼本の詳細
・「新しい「教育格差」」(2009年6月、講談社)

・著者:増田 ユリヤ
1964年、神奈川県横浜市に生まれる。国学院大学文学部史学科卒業。「理論のみの教育論は本当の教育論ではない」を信条に、現場主義の教育論を説く。高校で世界史・日本史を教える一方、教育と歴史のレポーター、ディレクターとしてNHKや民放で活動。最近では日本テレビ「世界一受けたい授業」などでも注目を集める気鋭のジャーナリスト。

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