生活保護vsワーキングプア 若者に広がる貧困(書籍紹介)
日本の貧困問題解決に向けた議論をする際、必ず話に出てくる制度である生活保護。この制度が適切に運用されることが貧困問題解決の上で最も重要な課題の一つであるということは間違いないと思います。
本著では、この日本の最後のセーフティネットとも言われる制度の本質・実態を著者の生活保護ワーカーとしての経験等からあぶり出す一方、働いても貧困から抜け出せない、いわゆるワーキングプアと言われる人々をどこまで生活保護の範囲で支援すべきなのかといったところまで話を展開していきます。
◆最後のセーフティネットである生活保護制度がその役割を果たしていない
本著の冒頭では、これまで携わってきた相談者、特に若者に特化した事例を紹介しています。職場での精神疾患から失業、その後の不安定な就業。現場でしか分からない日本の貧困の現状が綴られています。そして、著者はこの事例で紹介された人々は生活保護の対象になるのかという問いかけに対し、立場によって「イエス」でもあり、「ノー」でもあると言います。
この答えの意味を端的に示すショッキングなデータがあります。それは、生活保護申請を拒否された内66%が自治体の対応に保護法違反の可能性があるというデータです。[朝日新聞(2006年9月1日)朝刊記事]またその後、全国42都道府県で初めて実施した電話相談では計634件の相談があり、そのうち保護を断られた180件中118件は自治体が違法な対応をしている可能性があると分かりました。そして、さらにこの内41件は「若いから働ける」と拒否されていることが判明したのです。
これらのデータから、生活保護審査をする立場からすれば先にあった問いかけに対しては「ノー」であることが分かります。また、最後のセーフティネットである生活保護制度がその役割を果たしておらず、自治体での保護費削減のための水際作戦が展開されていることも伺えます。
これらの課題を解決していくためには、制度設計者と運用者がまずは考え方を変えること、それはつまり生活保護制度の目的である「自立を支援すること」に立ち返ることだと著者は訴えます。
そして、この目的を達成するために、達成状況を客観的に示す適切な指標設定を提唱しており、それを「自立率※=生活保護からの自立者数÷生活保護申請者数」と定義しています。さらに、これと並行して自立したとされる人々の追跡調査を行うことで生活保護費という社会的投資に対してどれだけの納税(効果)があったのか数値管理できると主張しています。
本著は、劇的な社会システムの変化についていけず、本来の目的を失いかけた生活保護制度の実状を知り、本来の目的に立ち返るためにはどうすればよいのか考えるきっかけを与えてくれる一冊です。(雑賀雄太・代表理事)
▼本の詳細
・「生活保護vsワーキングプア 若者に広がる貧困」(2008年1月16日、PHP研究所)
・著者:大山 典宏
1974年埼玉県生まれ。社会福祉士。立命館大学大学院政策科学研究科修了。埼玉県志木市役所福祉課の生活保護ケースワーカーを経て、現在は埼玉県所沢児童相談所勤務。
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