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命の格差は止められるか(書籍紹介)

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今から約20年前。あるハーバード大学の教授との出会いによって、どのような社会が人々の健康に良い影響を与えるのかついて研究することになった著者。

本著では、長年の調査研究によって得られたデータをもとに、経済格差によって生じる「命の格差」について論じています。

◆社会課題の責任は社会に帰属するものであり、社会全体として解決するべき

まず、当研究の中で特に著者が注目した社会(国)が戦後約30年間で先進国中、最低であった寿命を世界トップにした日本でした。第1章では日本の長寿の秘訣について迫ります。

第2章・3章では経済格差から派生する、労働格差、教育格差、学歴格差、地域格差等、様々な格差について取り上げ、これらの格差が健康格差を生んでいると指摘します。

そして、それぞれの格差是正に向けた調査・分析や事例を数多く紹介していく中で、それぞれの格差問題の核に迫っていきます。

その中でも私にとって特に興味深かった事例が、1997年からメキシコでスタートした低所得の家庭に現金を支給するプログラムです。

現金を支給するだけのものであれば特筆するべき政策とは言えませんが、この政策のユニークな点は支給条件を加えている点です。定期健診を実施すること、子どもに学校に出席させること、栄養教室に参加すること等を支給の条件とし、その条件を満たす家庭にのみ現金を支給しました。当初500の村で試行実施したところ、発育状態、学習能力がともに飛躍的に向上し、低所得者2,000万世帯を対象に実施されるようになったとのことでした。

このような政策を「条件付き現金支給制度」と言い、経済格差から派生する教育・医療等の格差問題に対してシャープなアプローチをすることが可能となります。国の政策が格差の解決に最も有効に働いた事例の一つだと言えます。

そして、最終章で著者はパブリックヘルスを考える上で重要な視点について語っています。

「社会全体としての貧困や失業等、健康に悪影響を及ぼすという傾向があっても、それを個に当てはめるべきではない。パブリックヘルスが対象とするのは社会全体で、その責任を個人に求めることではない。」

社会課題の責任は個人に帰属するものではなく社会に帰属するものであり、社会全体として解決するべきであるという著者の考えに私自身、深く共感しました。

一側面に囚われることなく、多面的な視点から社会課題にアプローチをしていくことが重要であると考える著者の姿勢からは、社会の一員として自分に何ができるのか深く考えさせられます。(雑賀雄太・代表理事)

▼本の詳細
・「命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業」(2013年7月、株式会社小学館)

・著者:イチロー・カワチ
ハーバード大学公衆衛生大学院社会行動科学学部学部長・教授。1961年東京生まれ。12歳で父親の仕事によりニュージーランドに移住。オタゴ大学医学部卒業後、同大学で博士号を取得。内科医として同国で診療に従事。1992年にハーバード大学公衆衛生大学院に着任。2008年に現在の役職に就任し現在に至る。米国科学アカデミー(NAS)に属するアメリカ医学研究所(IOM)のメンバーに選ばれる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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