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新平等社会-「希望格差」を超えて(書籍紹介)

親子

最近、特にはまっている山田昌弘さんの著書。彼は家族社会学の専門家でもあると同時に、コピーライターのように本質を鋭くついた「言葉」を数々生み出しています。彼は、「パラサイトシングル」や「婚活」という、今や誰でも使っている言葉を生み出しただけではなく、格差社会や子どもの貧困は、希望の喪失につながるというメカニズムを紹介し、その現象を『希望格差』という言葉で伝えています。僕はこの仕事を始めてまだ2年半くらいですが、子どもの貧困の現状は、正にこの言葉の通り、子どもの内面に大きな問題を生み出しています。

さて、その著書が本著で伝えているメッセージは、格差社会の問題点やメカニズムだけではなく、どのような社会を目指すべきかというソリューションの部分です。

◆格差問題の本質は「希望格差」という人々の内面に生じる問題

特に、僕が著者の話しの中で的確だと感じた部分は2点あります。ひとつは、前提条件として、「生産性の低い職業はなくならない」、「不利益を被る家族はいなくならない」という点をあげ、経済格差を前提に論をすすめている点です。著者は、「格差を生み出す自由な経済市場を肯定すること」と、「市場の自由の結果生じた格差を肯定すること」は別次元だと言っています。確かに、我々が自由に行動する結果として必ず格差が生じるなら、格差の出現は避けられません。しかし、結果として出現した格差が社会的に望ましくなければ、それを是正するための対処をしなければなりません。

次にふたつ目ですが、その是正の方法として、著者は「希望」に焦点を当てて考えています。希望という言葉を使うと、非論理的なイメージになりますが、確かに本質をついていると感じます。例えば、現在フリーターでも、昇進や昇給の機会、また能力開発機会が平等に開かれていれば、将来的な見通しがついたり、希望をもって取り組める可能性が高まります。また、子どもの教育機会が保障されていることで、子どもは努力をすれば報われるかもしれない、貧困から抜け出せるかもしれないという希望をもつことができます。

また、著者は、生産性の低い職業がなくならないという前提のもと、例えば、サークル活動やボランティア活動などのコミュニティ活動を強化、推進していくことで、職場以外の環境で、自分の努力をきちんと評価してくれる関係性(社会関係資本)を豊かにしていくことも大切だと説いています。

このように、格差問題の本質を「希望格差」という人々の内面に生じる問題と捉え、人々が希望をもって生活をすることのできる社会を「新平等社会」と呼んでいます。そして、希望をもって暮らすためにはどのような制度を作っていくべきか、また現制度をどのように改善していくべきか、その具体的方法を挙げている本著は、これからの社会の進むべき方向性を示してくれる良書であると感じました。(奥野慧・代表理事)

▼本の詳細
・「新平等社会-「希望格差」を超えて」(2009年2月、文藝春秋)

・著者:山田 昌弘
1981年、東京大学文学部卒業。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。親子・夫婦・恋人などの人間関係を社会学的に読み解く試みを行っている。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。また、「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主な著書に『新平等社会』(日経BP・BizTech図書賞受賞、文春文庫)など(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『「婚活」現象の社会学 日本の配偶者選択のいま (ISBN-10: 4492223037)』が刊行された当時に掲載されていたものです)

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