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生活保護 VS 子どもの貧困(書籍紹介)

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以前のメルマガでご紹介させていただいた社会福祉士の大山典宏さんの新しい本をご紹介します。本書では、「生活保護」と「子どもの貧困」をテーマに、行政と民間の双方で生活困窮者の支援に関わってきた著者が、その問題点や解決策について丁寧に解説します。

◆生まれながらの環境によって貧困が再生産される事態は避けなければならない

まず、生活保護をめぐる議論は、「賛成」「反対」の真っ二つに分かれることがほとんどです。著者は、これら二つの意見を的確に分類しています。

一つは、貧困の原因を「個人」に求める考え方です。例えばある人が金銭管理ができずにパチンコに浪費してしまう、その結果として貧困に陥ってしまうといった場合に、本人の生活が貧困の最大の原因だと考えます。また、納税者の視点に立って、不必要な給付が行われていないか厳しくチェックし、みだりに生活保護を支給することを許しません。更に、生活困窮者は家族や地域で支え合うことを強調します。

もう一方が、貧困の原因は「社会構造」にあるという意見です。例えば非正規雇用の増大や少子高齢化社会の中で、社会構造が貧困を生みだしていると考えます。これらは納税者ではなく当事者(生活保護利用者)の視点で生活保護を捉えるため、困った人は漏れなく救うことができるような対応を政府に求めます。さらに個人や家族間ではなく、政府の責任を強調します。

2012年に芸能人の親が生活保護を受給していたという事件を歯切りに、現在の日本では前者の考え方(貧困の原因を個人に求める意見)の方が強い傾向にありますが、ここ10年ほどは、これらの2つの考え方が数年スパンで攻守を入れ替えながら激しく議論されているとのことです。

これらの相反する考え方を詳しく解説しますが、筆者は「二つの考え方は、どちらも一理ある」という立場を取り、本書の中でどちらが正解だとは述べません。

著者は、私たちが目を向けるべきなのは、議論の争点となっている部分ではないと考えます。むしろ、ベースの考え方が異なっていても、お互いに合意が取れている点をしっかりと見つけ出し、解決可能なものから着実に取り組んでいくことが大切であると主張します。

そして、両者が「早急に対策をとるべき」という点で強い合意が取れている課題こそ、「子どもの貧困」であると述べています。生まれながらの環境によって、教育環境が異なり、貧困が再生産されるという事態は何としても避けなければならないと考えます。

これらの考え方を主軸に、本書の後半では、「子どもの貧困」という視点から生活保護の問題をとらえ直し、これからの貧困対策が目指すべきものを明らかにしていきます。子どもの貧困対策法やNPOの先進事例等、子どもの貧困対策の最新の動向をこの一冊で知ることができる、オススメの一冊です。(今井悠介・代表理事)

▼本の詳細
・「生活保護 VS 子どもの貧困」(2013年11月、PHP新書)

・著者:大山 典宏
1974年埼玉県生まれ。社会福祉士。立命館大学大学院政策科学研究科修了。志木市福祉事務所の生活保護ケースワーカー、所沢児童相談所の児童福祉司などを経て、2008年から埼玉県福祉部社会福祉課で生活保護受給者の自立支援を担当。2010年から携わった「生活保護受給者チャレンジ支援事業(愛称:アスポート)」では、2年間で8,000人を支援、4,000人を自立に導く。ボランティアでウェブサイト「生活保護110番」を運営。同サイトでは、15年間でのべ6,000人の相談を受けるなど、生活保護の専門家として幅広い活動を続けている。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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