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弱者99%社会―日本復興のための生活保障(書籍紹介)

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本書はBSフジ「プライムニュース」の連続提言企画を新書化したものです。宮本先生を軸に複数の専門家が各々の視点から今の日本社会が抱える問題について議論されています。

◆どのような社会を構築していくべきなのかを考える上で重要な4つのポイント

議論の前提として、本書では今の日本社会を「同時多発不安」社会であると形容しています。不安を高めた筆頭は言うまでもなく2011年の東日本大震災ですが、それ以前から旧来型の雇用システムの崩壊や家族の在り方の変化によって日本社会には歪みが生じていました。

その上で我々がどのような社会を構築していくべきなのかとした時に本書が主張するポイントは以下の4点です。

1.全員参加型の社会-現役世代の社会参加を保証するしくみをつくる
2.社会保障と経済の相乗的発展
3.つながりの再構築
4.未来への投資としての次世代育成

その中で今回は特にCFCと関連が強いと思われる、

3.つながりの再構築

について論じられている部分を簡単に要約してご紹介します。冒頭でも触れましたが、高度経済成長期の日本社会は終身雇用制度に代表される強固な会社とのつながり(社縁)のおかげで、地域や親族とのつながりが弱くても一定の幸福を感じる事が出来ました。しかし安定雇用が崩れると頼みの綱であった社縁も希薄になり一転して無縁社会という状況に陥っているのが現状です。

そこで最近では失ってしまったつながり、コミュニティのあり方を問い直す動きが出てきました。それはコミュニタリズムと呼ばれ共同性、共通性を重視する思想です。具体的には地縁・血縁をベースにした「コミュニティ」と「行政」、「NPO」という異なる3つのセクターが相互に連携することで新たな「つながり」が生まれ、維持されるということです。

これまで家族などで担ってきた子育てや介護、障害を持った人々のケアはもはや単体の家族で担えなくなってきているのは最近のニュース・報道を見ていても明らかです。単体ではなく地域全体としてそれらに取り組まざるを得なくなっているのですが、そこから生まれる新しい縁を「必要縁」と呼び、象徴的な例として「共生型ケア」が紹介されています。

そのひとつ、釧路市のコミュニティハウス冬月荘では大きな家の2階では高齢者ケアを、1階では生活保護を受けて、自立の道を探っている人が母子世帯の中学生に高校進学が実現するように勉強を教える。勉強を教えた中学生は2階にも行って高齢者たちと話をして帰る、という具合です。

CFCは直接ケアを行っている訳ではありませんが、この「必要縁」の新たな形だと私は信じています。震災や、貧困の連鎖による子どもの教育機会の喪失。これらは社会全体が取り組むべき問題であり、その必要性によって子どもや地元の大学生ボランティア、支援者の方々などがつながっていきます。そして、このつながりは一方向的なものではなく、自分も誰かの役に立っている、「承認」されている喜びを感じる事が出来ます。震災発生直後、東北にボランティアに行った多くの人たちが「被災地で、逆に自分が生きる活力をもらった」と口にしていた事を私はこの本を読みながら思い出しました。

今回はつながりの再構築をピックアップしてご紹介いたしましたが本書は誰もが普通の生活者から脱落するリスクを背負った今の日本社会においてどのように新しい未来を築いていくべきか、複数の識者の視点から論じられた構成となっています。これからの日本社会を考える上で、皆様の参考になればと思い、ご紹介しました。ぜひ一度読んでみてください!(鈴木平・東京事務局長)

▼本の詳細
・「弱者99%社会―日本復興のための生活保障」(2011年12月、幻冬舎)

・著者:宮本 太郎
北海道大学大学院法学研究科教授(比較政治、福祉政策論)。1958年東京都生まれ。中央大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。立命館大学法学部助教授ストックホルム大学客員研究員などを経て、2002年より現職。政府の「安心社会実現会議」委員、総務省顧問、内閣府参与などを歴任。「社会保障改革に関する有識者検討会」では座長を務めた。主著に『福祉国家という戦略―スウェーデンモデルの政治経済学』(法律文化社)、『福祉政治―日本の生活保障とデモクラシー』(有斐閣)、『生活保障―排除しない社会へ』(岩波新書)ほか。

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