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日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか(書籍紹介)

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『日本の若者は自分に自信がなく、将来に希望が持てない。』政府が3日に閣議決定した「子ども若者白書」を見て、またか。と思ってしまいました。私は学生時代に所属していた団体で静岡の若者の自己肯定感を測る調査を実施し、以来この指標に注目していましたが今年も暗たんとする結果がニュースでも多く流れました。

国際比較で見ると「自分自身に満足している。」と回答した人の割合は、日本が最下位で、45.8%、他国は全て70%を超えており、「将来に明るい希望を持っている。」という人の割合も、日本の61.6%が最低で、他国は全て80%以上になっています。『なぜ、こんなにも日本の子ども・若者は自己肯定感が低いのか』そう思い、手に取ったのが今回ご紹介する本著です。

◆本来自尊感情を高める場である学校や家庭が、それらを損なう場所になっている

これまでの書籍紹介でも繰り返し述べてきましたが、日本のこどもを取り巻く社会環境は閉塞感にあふれています。児童精神科医をしている著者のもとにきた小学1年生の子は、外来でふつうに「疲れた」と言うそうです。この子が特別なのではなく、今こういったお子さんは増えてきている、その事実を知り冒頭から私は愕然としました。全ての子どもがそうではないにしても、この現状を考えると私たち大人は子どもに対する接し方を再考しなければいけません。そこで、著者が提言しているのは「子どもの存在をあるがままに肯定する」、そしてそれを確認する指標が「自尊感情」だとも述べています。子どもたちは大人に言われるまでもなく、自分の欠点を理解している。欠点を踏まえたうえで、自信をなくすのではなく自分を肯定的にとらえて他者と協調していく。そしてそれが許される家庭、学校、社会を構築していくべきだとも言っています。

この「自尊感情」は高すぎても他者との軋轢を生じやすくする、という前置きをしながらも、海外の報告では自尊感情の強い子どもは、情緒が安定し、責任感がある、社会的適応能力がある、成績もよいなどの特徴がみられると指摘されています。

前述の「子ども若者白書」と同様に、著者もドイツでつくられた「生活の質」判定尺度「Kid-KINDL」の日本版を適用し、「身体的健康」「情動的健康」などの項目と合わせ、若者の「自尊心」の在り方を調査しています。その調査結果によると、どの年代でも「学校」「自尊感情」のスコアが低く学校生活や自分自身に不安や問題を抱えていることが見て取れます。その主な原因として、本来自尊感情を高める場であったはずの学校や家庭が逆にそれらを損なう場所になってしまっていることがひとつ考えられます。家庭では、将来や生活に不安を感じている親が子どもに暴力をふるうそうではないにしても緊迫した家庭状況が感受性の強い時期の子どもに影響を与え、それが連鎖してしまうという負の連鎖を作り上げていることにもふれています。

最後に著者は自尊感情を高めるために年代別に以下のような関わりをすべきだと述べています。

①幼児期から学童時期初期:自尊感情を伸ばす
②前思春期から思春期  :自尊感情を低下させない
③思春期以降      :失った自尊感情を回復させる

自尊感情はむやみに伸ばしたらいいというものではなく、各年代ごとに適切な対応があるということです。CFCでは小学生から高校生までの子どもたちにクーポンを提供し、大学生ボランティアがブラザー・シスターとして子どもたちの相談にのったり、学校や勉強、塾での話を聞いています。当然、この自尊感情を高める、というのは面談を行う上でも重要な指標となっており、現にCFCでは1年目から外部調査でQOL(自尊感情)の評価を行っています。

今回は小児科医の先生からの視点ということで普段とは違った観点から日本の子どもを考察する、いい機会となりました。皆様にも、ぜひ一度読んでいただけたら幸いです。

▼本の詳細
・「日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか」(2009年5月、光文社)

・著者:古荘 純一(ふるしょう じゅんいち)
青山学院大学教育人間科学部教授。1984年昭和大学医学部卒業。小児科医、児童精神科医、医学博士。1998年昭和大学医学部小児科学教室講師、2002年より青山学院大学文学部教育学科助教授・教授を経て、2009年より現職。2003年、小児科学会小児医学研究振興財団・日本イーライ・リリーフェローシップ受賞。主な著書は『新小児精神神経学』(日本小児医事出版社)、『軽度発達障害と思春期』(明石書店)、『不安に潰される子どもたち』(祥伝社新書)、『家族・支援者のための発達障害サポートマニュアル』(河出書房新社)など。

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