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ここがおかしい日本の社会保障(書籍紹介)

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今回は、社会学者の山田昌弘さんの本をご紹介します。本書のテーマは、タイトルの通り、日本の社会保障制度の問題点についてです。

特に印象的だったのが、今と昔の貧困の変化に関する記述。「貧困」と言っても今と昔では質的に大きく異なります。

◆「社会保障制度が社会の変化に追いついていない」

従来認識されていた「貧困」とは、様々な理由で「フルタイムで働くことができない人々」が陥るものでした。例えば、何らかの理由で職を失った失業者、病気等で働けない人、幼い子どもを抱えるためにフルタイムで働けない母子家庭等がそれに当たります。

しかしながら、近年の日本では、「フルタイムで働いている人」、「就労の機会や能力がある人」等であっても貧困に陥るケースが出てきています。これが従来の貧困とは質的に異なる「新しい貧困」の概念です。

このようにフルタイムで真面目に働いても人並みの生活ができないくらいの低収入の人々は「ワーキングプア」と呼ばれ、その言葉は日本でも定着しつつあります。例えば、過当競争で収入が激減したタクシー運転手、ネットカフェで寝泊まりする日雇い労働の若者等がそれに当たります。最近では、正規の大学教員になれず非常勤講師や塾のバイトで食いつなぐオーバードクターのような「高学歴ワーキングプア」も出てきています。

もちろん、従来型の貧困(様々な理由で働くことができない人が陥る貧困)がいなくなったわけではなく、今でも存在しています。しかし、ワーキングプアに代表される「新しい貧困」の出現は、従来型の貧困に陥っている人々にも変化をもたらしています。

どういうことかというと、これまでは様々な理由で働けない人も、「就労のチャンスさえつかめば貧困から脱することができる」という「希望」を持つことができました。しかしながら、ワーキングプアの出現によって、彼らは「働いても貧困から抜け出せない」という現実を見せつけられることとなり、将来に対する「希望」を奪われてしまったといいます。

このように、日本社会は確実に変化していっています。しかしながら、「彼らを救うはずの社会保障制度が社会の変化に追いついていない」という点が、著者の主張です。

例えば、現代の貧困対策のメインは「失業対策」ですが、これは「働くことができれば貧困から抜け出すことができる」という前提の上で成り立っています。しかしながら、「新しい貧困」は、前述のようにフルタイム働いても生活が苦しいワーキングプアに陥った人々です。よって、失業対策が中心となって設計されている現在の社会保障制度では、失業者をワーキングプアに置き換えることにしかならず、彼らは貧困から抜け出すことができません。

本書を読むことで、貧困対策、年金制度、児童養護制度等、日本の様々な社会保障制度の問題点と解決のために必要な視点を得ることができます。

子どもの貧困対策法が成立し、具体策が検討されている今だからこそ、日本の貧困の問題と社会保障制度の現状について考えることの大切さを感じています。

▼本の詳細
・「ここがおかしい日本の社会保障」(2012年11月、文藝春秋)

・著者:山田 昌弘
1957年、東京都生まれ。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学、感情社会学。東京都児童福祉審議会委員、内閣府男女共同参画会議民間議員などを歴任。「パラサイト・シングル」「格差社会」という言葉を浸透させたことでも知られる。

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