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街場の共同体論(書籍紹介)

キャリア

今回は「人と人の結びつき」というテーマのもと、筆者が独自の視点から家族、教育、コミュニケーション等に対して論じている書籍をご紹介します。これまでこのコーナーでも、現代日本社会が持つ課題について触れてきました。本著が帰着するところは一見、シンプルで当たり前のことなのかもしれませんが、それは社会システムがうまくいっている時の当たり前です。課題が多い今だからこそ、それらのことをもう一度見直してみようと本著を手に取りました。

◆コミュニケーション能力とは「普通はしないことをあえてすること」?

この本の中で特に私が面白いなと思った箇所のひとつは、コミュニケーション論です。私がCFCに転職して最近感じるのは前職より圧倒的に「幅の広いコミュニケーションが必要」ということです。私の前職は普通のサラリーマンでしたのでコミュニケーションの相手は取引先や社内の上司など同じ会社員がほとんどでした。しかし、今の仕事ではそういった会社員の方とのやりとりはもちろん、子どもや大学生、地域のお母さん方まで様々です。その方々とのやり取りの中で、なんとなく私が感じていた違和感の答えが本著の中にありました。

筆者はコミュニケーション能力とは自分の「言いたいことをはっきりと言える」「目をきらきらしながら相手の話をきく」ではなく「普通はしないことをあえてする」事だと言っています(私はコミュニケーション能力とは前者のものだと思っていましたし、そう教わってきました)。極度にマニュアル化、制度化された社会が日本であり、その中ではそれぞれがその立場に即したコミュニケーションを求められます。しかし、その弊害として一度そのマニュアルに載っていない事態に直面するとフリーズしてしまう。

このコミュニケーション失調とも言える状態から回復する手段としては自分の立場をいったん「かっこにいれる」ことです。相手が何を言っているかわからない時は自分は一旦黙って、相手の言い分に耳を傾ける。それが対話のルールでもあると述べています。

この方法はCFCの大学生ボランティアが子どもたちと接する際に大事にしている「傾聴」の姿勢とも共通する部分があります。相手は子どもですから、つい色々なことをアドバイスしたくなる。しかし、そこをぐっと我慢して相手の言いたいことが出てくるまで待ってみる。子どもたちが進路に迷っている時でも彼ら自身の中に答えがあると信じて、安易な価値観の押し付けはしない。大学生自身も子どもたちとの関わりを通じて立場の違う人間とのコミュニケーション方法を覚えていきます。

近年、コミュニティの再構築が様々なところで取り上げられていますがコミュニティ(共同体)とは人と人との集合体であり、その中では自分と立場の違う人たちとのコミュニケーションが日常です。自分の立場からの主張を繰り返すのではなく、相手が何を言いたいのかを聞き、そこのギャップを埋めていくのが本当のコミュニケーション能力ではないでしょうか。

この話も出来ている人からすれば、「当たり前」のことです。しかし、自分ではなかなかそれに気づくことが出来ません。そんな時本著を読むと、多くの気づきを得ることが出来ます。このコーナーでは紹介できませんでしたが他にも面白いなと思えるトピックが多くある本ですのでぜひご一読ください。

▼本の詳細
・「街場の共同体論」(2014年6月、潮出版社)

・著者:内田 樹
1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院博士課程中退。武道家。神戸女学院大学名誉教授。専門はフランス現代思想、映画論、武道論。多田塾甲南合気会師範。『私家版・ユダヤ文化論』で第6回小林秀雄賞、『日本辺境論』で新書大賞2010受賞。第3回伊丹十三賞受賞。

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