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日本の大課題 子どもの貧困: 社会的養護の現場から考える(書籍紹介)

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今回は、先月出版されたばかりの池上彰さんの新著をご紹介します。

世界中のいろんな問題をわかりやすく解説してくれるジャーナリストの池上彰さん。『いつになったら、池上さんは「日本の子どもの貧困」の問題について触れてくれるのだろうか…?』と、数年前から思い続けていましたが、ようやくその日がきました。

一言で「子どもの貧困」といっても扱うテーマは多岐に渡りますが、この本では、特に課題の深刻度が高い「子どもの社会的養護」にテーマを絞り、児童養護施設や里親等のもとで育てられている子どもたち(=社会的養護が必要な子どもたち)の現状や課題、そして今後の展望について解説しています。

◆「施設出身者」としてではなく、「○○大学出身者」として就職活動ができる

この本では、池上彰さん本人が「子どもの貧困」についてわかりやすく解説するのではありません。池上さんが、あえて「素人」の立場から児童養護施設の施設長をされている高橋利一さんに質問を投げかけて、施設で暮らす子どもたちの実態や、児童養護施設の成り立ち、施設運営の実状、その他社会的養護の各種制度のことを明らかにしていく「対談形式」です。

子どもの社会的養護に関して、幅広く話題が展開されていくのですが、対談の中で個人的にとても印象的だったのが、児童養護施設の現場の支援者である高橋さんの「子どもの学歴」に対する考え方でした。次のように述べています。

『世間では今学歴がすべてではないと言われていますが、施設にいる子どもにとっては、学歴は大きな武器になります。過去の連鎖する色々な問題を断ち切るためには、武器は多いに越したことはない。』

ここでいう「色々な問題」というと、例えば本書で紹介されている事例では、高校を優秀な成績で卒業して企業から内定をもらっていた子が、家族の事情で内定を取り消されたというケースがあったそうです。

理不尽な話ですが、企業の信用問題もあって、子どもの過去の複雑な家庭状況が、就職に対してマイナスに働いてしまうこともあるそうです。施設を退所する18歳の時点では未成年なので、就職する場合、保護者の承諾や身元確認が必要になるため、「施設出身者」として就職活動をすると、どうしても家庭事情が明らかになります。

しかしながら、子どもが大学に進学することで、「施設出身者」としてではなく、「○○大学出身者」として就職活動ができるため、過去を完全に払拭できるといいます。

児童養護施設出身の子どもの大学(短大含む)・専門学校等の高等教育機関への進学率は約22%と、全国平均の約70%を大幅に下回っています。問題は、前述のような施設出身の子どもならではの特殊な事情だけではありません。結局、高卒で就ける仕事となると、職種がかなり限定されてしまったり、非正規の仕事を掛け持ちして過酷な労働環境のもとで働かざるを得なかったりしてしまい、なかなか将来安定することが難しくなります。特に18歳で施設を出た子どもたちは、身寄りがないので、職を失うと、住まいも失ってしまい、本当に大変な状況に陥ります。

現在の日本の学費援助制度では、彼らが高校卒業後、大学等に進学するには非常に大きな障壁があります。これはCFCでバウチャーを利用する高校3年生の子どもたちの話を聞いていても、強く感じる課題でもあります。

子どもたちが将来自立して、貧困の連鎖から脱出するためには、やはり教育の機会格差をなくすことが大事だということを、改めて思い直すと同時に、決してそれだけでは解決できない、この問題の複雑さを強く感じます。

非常に多くのことを考えさせられる内容ですので、是非手に取ってみてください。(今井悠介・代表理事)

▼本の詳細
・「日本の大課題 子どもの貧困: 社会的養護の現場から考える」(2015年3月、筑摩書房)

・著者:池上 彰
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者として経験を積んだ後、報道局記者主幹に。94年から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として様々なニュースを解説して人気に。2005年NHKを退局、フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。12年4月より、東京工業大学リベラルアーツセンター教授として東工大生に「教養」を教えている。

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