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紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている(書籍紹介)

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2015年5月30日に全線開通した仙石線に乗り、久しぶりに石巻市を訪れました。

瓦礫の山はなくなり、道路の舗装や復興住宅の建設が進み、前回訪れた時からは大きく姿を変えていますが、日和山の眼下に広がる空き地は、その被害の大きさを物語っています。その日和山から太平洋側を眺め、右手に見える巨大な工場が、今回ご紹介する本の舞台「日本製紙石巻工場」。3本の高い煙突から水蒸気が力強く上がり、青い空に消えていく様を見ていると、ここが被災した工場であることを忘れてしまいそうになります。

◆「半年で工場を再開する」「工場を全力で立て直す」

震災当日、工場の建屋に入った津波は高いところで約4メートル。近隣から運ばれてきた家屋は18棟、自動車約500台、そして多くの遺体も流れ込み、工場は破壊されました。そんな絶望的な状況から、本を待つ出版業者や読者のために工場を立て直そうとする日本製紙の従業員たち。その苦闘の様子が本書には描かれています。

社長、工場長、総務課の主任、社用車の運転手、東京の営業担当…など、様々な立場の従業員が、震災から復興までの道のりで、何を感じ、どんな行動を取ってきたのか。彼らの強さも弱さもバランスよく記されています。そして、人間同士の絆・助け合いなどの心温まるエピソードだけでなく、震災後の人心荒廃ぶりも描かれている点がとても印象的です。有事だからこそ顕在化する人間の醜さ。その記録にも手抜きがなく、だからこそリアルなのだと感じます。

個人的には、やはりリーダーたちの決断がぐっときました。「半年で工場を再開すること」を宣言した倉田工場長。震災2週間後に現場を視察し、「工場を全力で立て直すこと」を社員に約束した芳賀社長。彼らの言動には目頭が熱くなります。

東日本大震災で、石巻市は3,962名の方が犠牲になりましたが、石巻工場の社員は全員が無事でした。そしていま再び、煙突から水蒸気をあげ、工場は全稼働しています。

本書は多くのメディアにも取り上げられたため、既にご存知の方も多いと思いますが、CFCのクーポン利用者が最も多い石巻で起きた奇跡。その道のりにはどんなドラマがあったのか、まだ知らない方はぜひご覧ください。(奥野慧・代表理事)

▼本の詳細
・「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている」(2014年6月、早川書房)

・著者:佐々 涼子
1968年生まれ。早稲田大学法学部卒業。日本語教師を経て、ノンフィクションライターに。2012年『エンジェルフライト国際霊柩送還士』で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。

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