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幼児教育の経済学(書籍紹介)

2挙手

ノーベル賞経済学者のジェームズ・J・ヘックマン教授の就学前教育に関する研究が一冊の本にまとめられました。この研究結果は、子どもの貧困問題の解決を考えるうえで非常に重要なものですが、専門家向けの難しい研究論文ではなく、一般の方に向けてわかりやすく書かれたものですので、紹介させていただきます。

◆就学前教育の3つのポイント

まず、この本では、ヘックマン教授が40年以上にわたる追跡調査を通じて明らかにした、次の3点が主軸になっています。

1つ目は、人の人生の成功には、IQや学力に代表される「認知能力」だけでなく、健康、根気強さ、注意深さ、意欲、自信等といった「非認知能力」が重要であるということ。

2つ目は、「認知能力」も「非認知能力」も、幼少期に発達し、その発達は家庭環境に左右されるということ。つまり、子どもが就学前(幼少期)にどのような教育を受けるかが、その後の人生に大きな影響を与えるということ。

3つ目は、公共政策によって、家庭環境がよくない子どもに対して、十分な就学前教育を行うことで、上記の問題を改善できるということ。特に成人後に行われる公共政策(例えば職業訓練等)よりも、就学前教育の方が、少ない費用で高い効果をもたらすことも明らかになっています。

要点だけお伝えしましたが、本の中では、これらの詳しい研究結果や実際に行われた調査の内容だけでなく、発達心理学等の分野とも連携して、さらに深い分析が行われています。また、各分野の専門家による研究結果に対するコメントや、日本の政策にどう生かすかという視点での専門家の解説も掲載されています。

◆教育に科学的根拠(エビデンス)を

これらの研究結果は、現場の感覚とも一致するものだと感じます。すぐに思い出したのは、前職の学習塾に勤めていたときのことです。

例えば、学習の定着度合は、子どもによって非常に大きな差がありました(これは本当に個人差があって、既に小学1年生の段階でもかなり差がついています)。学習の定着が良い子どもは、学習意欲が高い、粘り強い、集中力がある、計画性がある、約束を守る・・・等、あげだしたらきりがありませんが、いわゆる「非認知能力」が高い子どもたちでした。

また、これらの能力が高い子どもの親は、ほぼ例外なく幼少期から積極的に子どもの教育に関わっていました(例えば、幼少期からかなりの量の歌や読み聞かせをしていました)。そして、今になって振り返ると、そのような家庭は、親が十分に子どもの教育に時間をかけることができるだけの労働状況が整っていたり、所得水準の高い家庭ばかりだったと記憶しています。

こういった前職の経験から、私自身、就学前の教育の重要性は以前から感じていたのですが、これらは私個人の経験によるもので、何の根拠もありません。私が、今回ご紹介した本が非常に素晴らしいと思うのは、就学前教育の重要性が「個人の経験」ではなく、「客観的なデータ」に基づいて、論じられていることです。

日本ではまだまだ、個人の経験で教育が語られ、政策が作られていることが多い状況ですが、海外ではこの本にあるような実証実験によって明らかになった科学的根拠に基づいて、政策が作られています。この本は、研究結果からはもちろんですが、教育政策の立案に対する姿勢からも多くのことを学べます。是非、手に取ってみてください。(今井悠介・代表理事)

▼本の詳細
・「幼児教育の経済学」(2015年6月、東洋経済新報社)

・著者:ジェームズ・J・ヘックマン (大竹文雄 解説/古草秀子 翻訳)
シカゴ大学ヘンリー・シュルツ特別待遇経済学教授。1965年コロラド大学卒業、1971年プリンストン大学でPh.D.(経済学)取得。1973年よりシカゴ大学にて教鞭を執る。1983年ジョン・ベイツ・クラーク賞受賞。2000年ノーベル経済学賞受賞。専門は労働経済学。

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