日本の若者はなぜ希望を持てないのか:日本と主要6ヵ国の国際比較(書籍紹介)
今回ご紹介するのは「若者」「希望」というキーワードが何となく気になって手に取った本です。
この本の特徴は、筆者の様々な意見が、個人的な経験ではなく、全て「エビデンス(科学的根拠)」に基づいて述べられている点です。内閣府が2013年に実施した『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』のデータを筆者が独自に分析しながら、日本の若者について論じていきます。
◆希望が持てない日本の若者たち
まず、この本の前提となるのが、日本の若者はアメリカ・イギリス・スウェーデン・フランス・ドイツ・韓国といった主要6か国の若者と比べて、将来への希望を持てていない人の割合が多いという事実です。
前述の内閣府の調査では、「あなたは、自分の将来について明るい希望を持っていますか」という質問に対して、「希望がない」又は「どちらかというと希望がない」と答えた日本の若者の割合は、約4割でした。一方で日本以外の6か国で同様の回答をした割合は1割~2割程度であり、希望を持てない日本の若者の割合は諸外国の2倍~4倍に上りました。このデータは、かなりショッキングです。
筆者は、「世界的にみて、なぜ日本の若者は将来に希望を持てないのか?」という大きなテーマに対して、経済状況、人間関係、教育、仕事、社会生活といった様々な角度からその要因を分析していきます。
◆経済状況と希望の関係
例えば、ここでは経済状況と希望の関係が示されています。自分自身の経済状況(お金)に対する不安を持っている若者の割合は、日本は7か国中2番目に高い結果でした(1番は韓国、7番はスウェーデン)。さらに、お金に対する心配の有無と、将来への希望の有無の関係をみたところ、ほとんどの国で、お金に対する心配があるグループの方が、将来への希望を持てないという傾向がでました。その中でも、日本の若者は国際的に見て最もその傾向が強いということがわかりました。
また、この調査では、自国の経済状況に対する意識(自分の国が今後経済的に発展していくと思うか否か)も、自分自身の将来への希望に影響している可能性が示唆されており、個人レベルにせよ、国レベルにせよ、「経済状況がよくない」という認識が、若者の希望を押し下げている可能性が高いとのことです。
このように、筆者は豊富なデータから、日本の若者が将来への希望を持てない要因について、海外と比較しながら考察していきます。紹介されているデータは、意外性があるものというよりは、「まあ、たしかにそりゃあそうだよね」というものが多いのですが、それらをきちんとデータで示したことに価値があると私は思います。
◆子どもたちに希望を
私は、学校外教育バウチャーの提供を通じて、究極的には子どもたちに将来への希望を感じてもらいたいと思っています(だからこの本のタイトルにピンときたのかもしれません)。経済的な状況に関係なく、学んだり、いろんなことを体験できることはもちろんですが、それだけでなく「世の中の多くの方々が自分を応援している」という実感そのものが、子どもの将来への希望度を高めるのではないかと思います。
この本を読んで、改めてこれまでの自分の考えや方向性自体は間違ってはいないと思った一方で、若者の希望を押し下げる要因が様々である以上、一団体が一つの事業を通じて出来ることの限界も認識しなければならないと強く感じました。若者が希望を持てる社会にするには、日本の大きな社会システムそのものが変わっていく必要がありますし、一方で家族や友人といった身近な人物との人間関係が重要ということから、ミクロな視点も決して忘れてはなりません。
単に、子どもや若者の支援の制度を整えて、機会を平等にするだけで解消できるものではないように思います。日本の若者に関する事実を突きつけられ、非常に考えさせられる内容でしたので、皆様是非とも手に取ってみてください。(今井悠介・代表理事)
▼本の詳細
・「日本の若者はなぜ希望を持てないのか:日本と主要6ヵ国の国際比較」(2015年11月、草思社)
・著者:鈴木 賢志
明治大学国際日本学部教授。1992 年東京大学法学部卒業、株式会社富士総合研究所で官公庁の受託調査に従事。1995年に英国に渡りロンドン大学政治経済学部(LSE) でヨーロッパ政治研究の修士を得た後、英国ウォーリック大学で日英の経済政策を研究し、2000年に博士号(PhD) 取得。1997 年から10年間スウェーデンのストックホルム商科大学欧州日本研究所に勤務し、日本の政治経済に関する研究・講義を担当。現在は日本社会のさまざまな制度と、その集合体であるシステムについて、諸外国と比較しつつ、また国民性の違いを勘案しながら論じている。
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