ニュース

学力を決定する要因は何か?-高所得国と低所得国での違い-

2挙手

私は学生のころ、アフリカのウガンダという国の学校教育の研究をしていました。「アフリカの学校教育」というと、CFCが注力している「日本の学校外教育」とはある意味対極にあるものです。今回は、そんな私がCFCの活動に興味を持ったきっかけのひとつである「学校効果研究(School Effectiveness Research)」について、ご紹介したいと思います。

※教育の「効果」は何かということについては様々な議論がありますが、ここでは説明を分かりやすくするために学力を「効果」として書いています。

◆学力を決定する要因は何か?

「学校効果研究」とは、端的に言うと、子どもの学力を決定づけている要因を明らかにする研究です。この研究では古くから、子どもの学力の決定要因を大きく(1)学校要因と(2)家庭要因に分けています。学校要因とは、教員の特性や学校設備などのことで、家庭要因とは、家庭の所得など、広く学校以外の要因全般を指しています。

この研究は、政策提言のため国や地方レベルで行われることが多いですが、いくつかの研究では、高所得国と低所得国を対比させて分析を行っています。そこでは一般的に「高所得国では家庭要因が学校要因より重大であるのに対し、低所得国では学校要因が家庭要因より重大である」ということが明らかにされています。

a0002_003655_m (2)

◆なぜ高所得国と低所得国で異なるのか?

1980年代のHeynemanとLoxleyをはじめとする研究者たちは、背景を以下のように解説しています。

・低所得国では、初等教育や中等教育などの学校教育ですら十分に普及していない。このため、学校教育を受けた労働者の需要は高く、学歴が高所得の仕事に直結しやすい。低所得国では、この認識が広く共有されていて、どの家庭も学校教育を受ければ高所得の仕事につけるという希望を持って、子どもに勉強させている。一方、高所得国では、社会経済ステータスの異なる家庭間で、子どもの教育についての態度に差があり、その差が子どもに影響している。

・高所得国では、学校間で教育の質の差はあるものの、概して基礎的な水準は保たれている。このため、学校よりも、学校以外のインプットの差によって学力の差が生じやすい。これに対して、低所得国では教科書といった基礎的なリソースが不足している学校もあり、学校間で異なる教育の質が子どもの学力に大きな影響を与えている。

(私が数年前にウガンダの小学校をいくつか調査した際、都心には日本の一般的な学校以上の設備があるような学校もありましたが、農村には先生すらいないような学校もありました。)

small-kids_sm

◆子どもの学力格差の縮小に向けて

子どもが受けている教育は国、地域、学校、学級、家庭などによって異なるので、子どもの学力を決定している要因は、個別の状況をよく見る必要があると思います。実際、近年ではHeynemanらの主張が当てはまらない場合も報告されています(例えば、Bouhlila, D,S.(2013))。また、実務的には学校と家庭、学校外教育機関等は対峙するものではなく、相互に協力・補完しあって子どもに働きかけるものなので、各ステークホルダーが子どもたちのためにできることはたくさんあると思います。

ただ、少なくとも、学校教育の質が一定以上に保たれている日本においては、学校外の要因が子どもたちの学力に多かれ少なかれ影響を与えるというのは納得できる説明だと感じました。(実際、一部地域では、日本での家庭要因の影響が明らかにされている論文も出ています。)

CFCは「貧困の世代間連鎖を断ち切ること」を目的として、学校外教育の格差を解消する活動を行っていますが、こういった研究結果から学校以外の環境に目を向けることは、子どもの学力格差の縮小を考えるときにも必要な視点だと思っています。(山本雅/広報チームマネージャー)

【参考】
・Heyneman, S, P. and W, A, Loxley(1983)“The Effect of Primary School Quality on Academic Achievement across Twenty-nine High and Low Income Countries

・Baker, D, P. and LeTendre, G, K.(2000)“Comparative Sociology of Classroom Processes, School Organization,and Achievement

・Bouhlila, D,S.(2013)“Heyneman-Loxley Effect Revisited in the Context of MENA Countries: Analysis Using TIMSS 2007 Database

【日本の教育格差の現状についてもっと知りたいあなたへ】

毎月の活動説明会で、子どもの貧困・教育格差の現状や、CFCの活動内容等について詳しくお伝えしています。

日本の教育格差の現状や、CFCの活動をより詳しく知りたい方は、ぜひご参加ください。

CFC活動説明会詳細