「グリット(やりぬく力)」と子どもの貧困の意外な接点とは?
先日、CFCのビジョンについて理事や職員間で改めて議論する機会がありました。様々な意見が出る中で、全員がうなずいたのが「子どもの自立には学力に加え、テストスコアでは測れない『生きる力』も必要」ということでした。
そしてその生きる力の具体例としてあがったのが「グリット(やり抜く力)」でした。このような出来事があり、今回はペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授による「やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」(ダイヤモンド社)という著書で、改めてグリットについて理解を深めてみました。
◆「グリット」とは?
かつて中学校の教員をしていた著者は、授業で飲み込みの早い子どもと遅い子どもがいることに気づきます。しかし、実際に試験の結果を見てみると、必ずしも飲み込みの早い子どもの成績がよいというわけでなく、飲み込みは遅くても予想以上の成績を取る子どもがいることにも気づきます。以来、研究者として様々な人々を対象に調査を行い、「成功には、才能ではなく『グリット』が関係している」ということを突き止めます。
「グリット」は、日本語では「やり抜く力」と訳されますが、詳細には「Perseverance and Passion for Long-term Goals」(長期的な目標に向かう粘り強さと情熱)を示しています。つまり、何事も諦めずに頑張るということではなく、人生の大目標には粘り強く、それに至るまでの小目標には柔軟に取り組んでよいというのがグリットの真意だそうです。
◆「グリット」を伸ばすために必要なこと
それでは、どのようにすればグリットを伸ばすことができるのでしょうか。筆者は本書でいくつかの方法を述べていますが、特に興味深かったのが以下の2点です。
1. 「成長思考」でいること
「成長思考」とは、「人間は変われる、成長できる」という考え方のことで、対義語は「固定思考」(「才能は鍛えて伸ばせるものではない」という考え方)になります。人間は困難を克服したときに脳の神経回路の再配線が起こり、成長思考になっていくのですが、本書では貧困家庭の子どもは努力が報われる経験が少なく、成長思考になりにくい環境にあるという点が指摘されていました。これは、CFCの活動を通しても強く感じる点でもあります。
2. 課外活動をすること
筆者はまだ科学的根拠は不十分としながらも、課外活動の重要性を主張しています。多くの子どもたちは勉強を「大変」と言う一方で、スポーツや音楽を「大変だけど楽しい」と言います。楽しい課外活動だからこそ子どもたちは、興味を深め、練習に励み、目的を持ち、希望を失わずに取り組むことを学べる、つまり課外活動は子どもたちが「グリット」を鍛えられる恰好の場所なのだそうです。
以上の点から、CFCが子どもたちのグリットを伸ばすためにできることは、CFCクーポンを通じて子どもたちに課外活動の機会を提供すること、そして、子どもたちの努力が報われるように(=成長思考でいられるように)サポートを続けていくことだと強く感じました。
本書は、子どもたちのサポートに有用な情報が詰まっているだけでなく、私個人にとっても「才能より努力が大切なのか」と希望を与えてくれる1冊になりました。ご関心のある方は、ぜひ読んでいただければと思います。(山本雅/広報チームマネージャー)
▼本の詳細
「やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」(2016年9月、ダイヤモンド社)
著者:アンジェラ・ダックワース(翻訳:神崎 朗子)
ペンシルベニア大学心理学教授。ハーバード大学卒業後、オックスフォード大学で修士号を取得。マッキンゼーの経営コンサルタント職を経て、公立中学校の数学の教員となる。その後、ペンシルベニア大学大学院で博士号(心理学)を取得し、心理学者となる。2013年マッカーサー賞(別名:天才賞)受賞。教育界、ビジネス界、スポーツ界のみならず、幅広い分野のリーダーたちから「やり抜く力」を伸ばすためのアドバイスを求められ、助言や講演を行っている。