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大阪市塾代助成事業とはー効果と課題ー

教育バウチャー

あ、紹介されてる!と、ちょっと嬉しくなった本があります。『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』は、経済学者である著者が、2012年当時の大阪市長が掲げた特区構想のもと、貧困をはじめ多くの課題を抱える大阪市西成区の改革に取り組んだ奮闘記です。

その中で、「『本当に困っている人』だけを助ける効率的な政策手段」の例として書かれていたのが、この西成特区構想事業のひとつである「塾代バウチャー」です。

塾代バウチャーといえば・・・そうです、この塾代バウチャー事業「大阪市塾代助成事業」は、大阪市が全国の自治体初の試みとして公的資金を投入し、CFCと協働して2012年の西成区での実施から始めたもので、2013年からは大阪市全区で展開しています。

◆注目される「大阪市塾代助成事業」とは

大阪市塾代助成事業は、「子育て世帯の経済的負担を軽減するとともに、こどもたちの学力や学習意欲、個性や才能を伸ばす機会を提供するため、学習塾や家庭教師、文化・スポーツ教室にかかる費用を、月額1万円を上限に助成する」、大阪市の施策です。助成対象は、大阪市内在住の中学生の養育者で、所得金額が市の定める金額未満の方とし、市内在住の中学生の約半数(約31,000人)が対象となっています。

2016年11月時点でバウチャー(「塾代助成カード」というICカード)の交付を受けている中学生は、助成対象となる中学生約31,000人の約60%にあたる18,997人で、うち実際に利用しているのは14,928人、塾代助成カードを利用できる学習塾等の事業者数は大阪市内外で約2,200事業者を超え、いずれも増加の傾向にあります。

◆その効果と課題

効果検証のために塾代助成カード交付者(保護者と中学生)に行っているアンケートでは、学力や学習意欲の向上のほか、「塾代助成によってどのような変化があったか」の問いに対しては、「新たに通塾できた、受講科目を増やせた」との声が62.7%、子どもの生活全般への影響については55.1%が「家庭での学習時間が増えた、生活習慣が改善された」と回答しています。また、中学生からは「塾代助成カードを使って良かったこと(自由記述)」として「家計の負担が軽減された」という意見が多数あがっています。

一方で、助成対象であるにもかかわらず塾代助成カードの交付を受けていない人、カードを持っているにもかかわらず利用をしていない人の声にも耳を傾ける必要があります。

例えば、2016年の「大阪市子どもの生活に関する実態調査」によると、塾代助成カードの所持率は困窮度が高いほど上がるというものではありませんでした。また、カードを持っているにもかかわらず利用していない人は、カードを利用している人に比べて、保護者の子どもへの進学や将来への期待度が低いという結果が出ています。これらを踏まえ、どのように働きかけていくかは今後の課題であると言えます。

◆親子が「希望を持つようになった」

最後に、教育事業者用アンケートに書かれた、塾代助成事業の継続実施を望む事業者からの言葉を紹介します。

あきらめていた子や親が
『やったらできるかな』『やってみよう』と希望を持つようになった

より多くの家庭がこのような希望を持ち、地域で子どもたちを支えていけるよう、これからもこのように自治体と協力し、子どもの貧困問題に取り組んでいきたいと考えています。(川瀬智子/関西事務局員)

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<参考>
・大阪市(2017)「大阪市塾代助成事業の実施状況(平成29年1月末現在)」
http://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/cmsfiles/contents/0000212/212697/290130.pdf

・大阪市(2017)「大阪市子どもの生活に関する実態調査について(大阪市全体版)」
http://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000364405.html

・鈴木亘(2016)『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』東洋経済新報社.