沖縄の子どもの貧困に「学校外教育バウチャー」は必要か?
2015年、私は「学校外教育バウチャー」の仕組みを故郷の沖縄でも広めたいという想いでCFCへ入職しました。
私の両親は共働きでしたが、父は勤め先の倒産を2度経験。家計は「やや苦しい」状況でした。ただ、私も弟も特に塾や習い事に通いたいという願望のない子で、両親は内心ほっとしていたと思います。私は高校3年生でやっと希望の進路が見つかり、「国公立」という条件付きで、奨学金を借りて県外の大学へ進学することができました。
私はたまたま自分の想いと両親の条件が合致していたので我慢をせずに済んだ。しかし、「子どもの貧困」の問題を知り、そうではなかった子どもたちの悔しさが自分のことのように感じられました。
◆沖縄の子どもの貧困の現状 ~子どもの貧困率は全国平均の約2倍~
2015年、沖縄県は全国で初めて県独自で子どもの貧困率を算出する調査に乗り出しました。その調査ではじき出された子どもの貧困率は「29.9%」。全国平均の「16.3%」(2012年時点)に比べて約2倍、沖縄の子どもの3人にひとりが貧困という数字でした。
また、それと同時に小・中学生とその保護者を対象にした「沖縄子ども調査」も実施されました。特別研究チームのメンバーの一人である、湯澤直美教授(立教大学)は、沖縄の子どもの貧困の厳しさを示す指標として、「低所得世帯層の厚さ」に着目しています。
中学2年生の保護者票をもとに世帯の年間収入(手取り額)を見ると、図1のように、「200万円未満」18.9%、「200~300万円未満」20.1%、「300万円~400万円」14.8%となっており、「400万円未満」の世帯が53.9%と半数以上を占めます。
図1 年間世帯収入(「沖縄子ども調査 調査結果概要版」P59よりCFC作成)
また、父親の雇用形態別では、正規雇用が58.2%で最も多いのですが、正規雇用でも年間収入「300万円未満」が39.7%。母親は、非正規雇用が54.1%で最も多く、非正規雇用での年間収入は「200万円未満」が93.4%に上ります。
◆「学校外教育バウチャー」は沖縄に必要か
この数字から、特に沖縄の子育て世帯において「貧困」はけっしてマイノリティではないことがうかがえます。実際にガスや水道が止められる、ご飯を買うお金にも困る、そのような中で「学校外教育バウチャー」が本当に必要とされるのか、という疑問も湧いてきました。
しかし、同じく中学2年生の保護者票をもとに「子どもにしていること」として、「学習塾に通わせる」という選択肢への回答を世帯収入別にみると、ある傾向が分かりました。
図2のように、学習塾に通わせることが「経済的にできない」と回答している割合が最も高いのは「200万円未満」の世帯で50.7%(「必要だと思わない」は12.2%)、次いで「200~300万円未満」の世帯で37.9%(「必要だと思わない」は23.0%)。いずれも「必要だと思わない」という回答の割合よりも高くなっていました。
図2 世帯収入別「学習塾に通わせる」(「沖縄子ども調査 調査結果概要版」P62よりCFC作成)
また、世帯収入別の統計は出ていませんが、「習い事に通わせる」という選択肢に関しても、「経済的にできない」(24.8%)という回答が、「必要だと思わない」(22.3%)という回答の割合よりもやや高くなっています。
「子どもには学ばせたい。だけど経済的に苦しい。」そんな親たちの存在は、沖縄においても「学校外教育バウチャー」の必要性が高いことを示していると感じます。
◆対処療法ではなく、社会の基盤を作るために
沖縄はこの約70年間で、沖縄戦、米軍統治、本土復帰という社会構造の大きな変化を3度も経験しました。この劇的な変化の中で、「よりよく生きること」はいつも後回しにされがちでした。
今、貧困の連鎖を断ち切ろうと行われている県全体の取り組みの中で、「学校外教育バウチャー」が単なる対処療法ではなく、「子どもたちの学ぶ権利を保障」する社会づくりに向けた一つのステップとして認知され、存在意義を深めていくことが政策導入へのカギになると考えています。(関西事務局員/有銘佑理)
毎月の活動説明会で、子どもの貧困・教育格差の現状や、CFCの活動内容等について詳しくお伝えしています。
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【参考文献】
沖縄県子ども生活福祉部(2016)「沖縄子ども調査 調査結果概要版」
沖縄県子ども総合研究所編(2017)『沖縄子どもの貧困白書』かもがわ出版