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塾って必要なの?という問いを考えてみた

10月12日に文部科学省で記者会見を行い、「スタディクーポン・イニシアティブ」の立ち上げを発表しました。

このプロジェクトは、CFCの東北や関西で行ってきた学校外教育バウチャーの活動を全国の政策にするために、複数のNPOや企業と共同で立ち上げたものです。

第一弾プロジェクトでは、渋谷区と協働して、区内の低所得世帯の中学3年生に、学習塾等で利用できる「スタディクーポン」を提供します。

記者発表後、新聞・テレビ等の各種メディアで取り上げられたこともあり、低所得世帯の子どもたちの学校外教育(塾代)をサポートすることに対して、様々な議論が繰り広げられています。

中でも多いのは、

・「そもそも、子どもの教育は学校が担うべきじゃないの?」
・「塾代援助ではなく、学校の底上げをした方がいいんじゃないの?」
・「塾ってそもそも必要なの?」

というものです。

これは、本気で議論をすると、一晩明かせるレベルの、非常に深い「問い」です。

◆塾と入試制度の関係を考える

例えば、日本をはじめとしたアジア諸国では塾が発達している国が多いですが、欧米諸国では、そもそも塾が多くありません。

これは、「塾に頼らないといけないくらい日本の学校教育の水準が低い」ということを表しているのでしょうか?私はそうは思いません。むしろ、日本の学校教育の水準は世界的に見れば高いと言えます。

国によって塾があったりなかったりする理由を考えると、各国の「入試制度」「留年・飛び級制度」「複線型教育・単線型教育」などがあげられると思います。今回は、この中でも「入試制度」について考えてみたいと思います。

例えば、日本や韓国などの東アジア諸国は入試制度が学力テスト一発勝負で合否が決まる傾向にありますが、米国の入試(主にここでは大学入試)では、学力テストの点数だけでなく、学校の成績(内申点)、学校生活や課外活動への取り組み、論文など、多面的な評価で進路が決定されます。

一方、日本のように、学力テスト一発勝負型の入試制度の場合、合格・不合格のライン(=テストの点数)が明確であるため、「一点でもテストの点数を上げて、希望の学校に進学したい」というインセンティブが働きます。どれだけ学校教育が充実しようと、お金がある世帯の子どもは学力を上げるために、塾に通って勉強します。

日本において、既存の入試制度を前提とすると、「学校教育の質を上げれば、塾は役割を失う」という話は成立しなくなり、お金が理由で、塾に行ける子と行けない子どもの格差が生まれます。

◆大学入試改革で塾の存在は薄まるのか?

そんな中、日本では2020年から大学入試改革が行われます。この改革では、学力テスト一発勝負型の入試制度を改めて、より多面的な評価を行う形に変更されます。(学校の成績、面接、課外活動の取り組みなど)

このような入試改革が行われた場合、理論上は米国のように塾の役割が少なくなり、学校教育だけで子どもたちの教育が担われる社会が来る可能性もあります。それは理想的にはよい状態かもしれません。

しかしながら、日本では既に学習塾などの学校外教育が発達した環境が整っていることを考えると、そういうわけにはいかないと思います。

現在も、塾が面接や作文対策をするなど、大学入試改革に合わせた新たなサービスの開発を進めています。

例えば東京大学でも昨年からAO入試が始まりましたが、特定の塾のAO入試対策講座を受講した生徒が合格者の大半を占めたことが、ニュースにもなったように、既に成果を出している事例もあります。

よって、既に塾などの学校外教育が発達している日本においては、現実的には今後も塾が一定の役割を果たし続ける可能性が高いのではないかと思います。

◆塾を社会資源として捉えなおす

このように考えると、所得格差による塾代格差は存在し続けるため、この格差をなくすことが、現実的な課題解決の方法になると私は考えます。

念のため申しあげておくと、私の考えは、決して学校教育の否定をする気はありませんし、塾を含めた学校外教育の回し者ではありません。あくまでも日本の子どもの教育の主体が学校であることは、今後も変わりないと思います。

ただ、日本では、塾をはじめとした学校外教育が、長きにわたって、子どもたちの個別的な受験指導や個別ニーズに応えてきて、学校教育を補完する役割を担ってきたことは事実です。

私はこの日本特有の教育システムを否定するのではなく、うまく活用しながら、解決に向けて進めていくのが、現実的な道筋なのではないかと思います。

私たちは、改めて塾をはじめとした学校外教育を、「社会資源」と捉えなおす必要があるのではないでしょうか。

受験指導等を含め、多様な子どもたちのニーズをすべて学校で対応するには、様々な制度変更や莫大な人員・コストがかかります。

今ですら学校教員の多忙化が問題になっている中、これ以上学校に多くの機能を持たせるのではなく、しっかりと学校外教育と手を組んで支えていく形が現実的だと思います。

今、日本の教育の研究や議論の多くは、「学校の中」の話に限られていて、塾をはじめとした学校外教育と学校教育はどのような役割分担をするべきなのか?という点については、まだまだ議論が成熟していません。

(ちなみに、ここではあげませんでしたが、突き詰めると、「そもそも学歴社会がどうなのか?」とか多方面に議論が及びます。全ては触れられないので、ここについてはまた別の機会に書きます。)

今回スタディクーポン・イニシアティブの立ち上げによって、この議論が始まったことは、教育格差の問題を解決していくうえで大きな一歩だったのではないかと思います。(代表理事/今井悠介)

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