「貧困は自己責任か?」を改めて考える
日本の子どもの貧困率が2009年に初めて算出されてから8年。
国内の貧困問題について、社会的に理解が進んできたと感じる一方で、今でも「貧しくても逆境を糧に成功した人はいる。努力が足りないだけではないか。」という意見が寄せられることがあります。
こういった意見をいただいたとき、「貧しくても成功した人はいる」のはその通りだと思うのですが、やはり腑に落ちない部分があり、私たち支援者と意見を異ならせるポイントは何だろう?と考えてみることがあります。
すると、貧困の自己責任論の裏側には、私たちがいつも使っている「2つの励ましの言葉」が潜んでいるのではないかということに気づきました。
1.「逆境は人を強くする」
皆さんの中には、「逆境は人を強くする」という言葉を胸に、仕事や勉強をがんばっている方も少なくないのではないでしょうか。
英語でも「What doesn't kill you makes you stronger.」ということわざがありますし、私も辛いとき、この言葉を信じてがんばろうと思うことがあります。
しかし、子どもには、これが当てはまらないことがあります。米国のジャーナリストであるポール・タフは、ベストセラーとなった著書「私たちは子どもに何ができるのか――非認知能力を育み、格差に挑む」(2017)の中で以下のように述べています。
・「逆境は、とくに幼い時期ほど、体内の複雑なストレス反応のネットワーク(中略)の発達に強い影響を及ぼす。」
・「この先の人生が困難であることが信号によって示されれば、ネットワークはトラブルに備えるための反応をする。」
・「しかしこの適応が長期にわたってつづくと、数々の生理学的な問題の引き金ともなる。」
・「とりわけ幼い時期に経験した高レベルのストレスは、前頭全皮質、つまり知的機能をつかさどる最も繊細で複雑な脳の部位の発達を阻害し、感情面や認知面での制御能力が育つのを妨げる。」
端的に言うと、幼少期に、ストレスへの反応が長期にわたって続くと、ストレスに敏感に反応するように子どもの脳が変わってしまい、感情のコントロールや粘り強さ、レジリエンスを育むのが難しくなる、ということが指摘されています。
「貧しくても逆境を糧に成功した人はいる」ことは否定できませんが、子どもにとって、逆境は糧にならない(むしろ逆効果)ことがあり、また逆境によるストレスが子どもたちの頑張る力を弱めてしまうことがあるということは、重要な事実だと思います。
2.「努力は必ず報われる」
「努力は必ず報われる」という言葉も、私たちが辛いときに信じようとする言葉の一つだと思います。
しかし、経済的な困難を抱えるご家庭と話をしていると、残念ながら、この社会では努力が報われないことがあると痛感します。
■CFCがサポートしているお子さん(ご家庭)の事例①
父親は公務員、母親は専業主婦だったが、
のちに父親に多額の借金があることが判明し、両親が離婚。
母親は離婚後、3人の子どもを支えるためにトリプルワークを始める。
母親は良い仕事に就くため資格を取ろうと、夜遅くまで勉強もしていたが、
ある日、過度のストレスからか鬱病になって働けなくなってしまった。
■CFCがサポートしているお子さん(ご家庭)の事例②
東日本大震災の影響で父親がリストラにあい、
その翌年に母親が病気で倒れ、後遺症が残ってしまった。
母親はリハビリに励むが完璧には回復できず、
父親は仕事に加えて家事もこなす必要があり、
今もフルタイムの仕事に就くことができない。
この話を聞いたとき、「このお母さん/お父さんは私よりもずっとがんばっているのに・・・」と本当に悔しく思いました。成功には、努力だけでなく、色んな偶然や運も少なからず関わっているのだと思います。
私たちもいつどこで何が起きるかわからず、だれもが支援される側になりえます。逆に、CFCの活動では今、支えられる側から支える側になった卒業生も出てきています。支える側と支えられる側を完璧に分けることはできないのだと思います。
今回、「逆境は人を強くする」こと、そして「努力は必ず報われる」ことを否定する夢のない内容になってしまいましたが、一方で、これらの言葉は子どもたちが大人になって踏ん張りが必要なシチュエーションが訪れたときに大きな力になりえるとも思います。
子どもたちが大きくなったとき、逆境を力にすることができる大人になれるよう、また努力を信じられる大人になれるよう、私もCFCの活動を通して、子どもたちの健やかな成長のお手伝いをしていきたいと思います。(広報担当/山本雅)
毎月の活動説明会で、子どもの貧困・教育格差の現状や、CFCの活動内容等について詳しくお伝えしています。
日本の教育格差の現状や、CFCの活動をより詳しく知りたい方は、ぜひご参加ください。
・参考文献
ポール・タフ(2017)『私たちは子どもに何ができるのか――非認知能力を育み、格差に挑む』英治出版。