日本最先端!『子どもの貧困対策支援システム』とは?
先日、大阪府箕面市の「子ども成長見守り室」の方々と意見交換をさせていただきました。
この部署は「子ども成長見守り支援システム」というデータベースを管理・運営している部門ですが、これが驚くほどすごいシステムで、同市の子ども0歳~18歳(約2.5万人)の「学力・体力・生活状況・家庭の経済状況・教育施策利用状況」等、ほぼすべての子どもに関連する情報が蓄積されており、かつ頻繁にデータが更新されています。
◆システムにより可能になった、迅速で正確な施策の効果分析
11月19日にそのデータを分析した「公益財団法人日本財団」から分析結果の速報版が発表されました。
結果をみると、「貧困状態の子どもの学力は10歳を境に急激に低下すること」や「低学力のまま年齢が上がると、学力を高めることが難しくなること」、「既存施策である学童保育は、子どもの学力・非認知能力を高める効果が確認できなかったこと」等、非常に有益な情報が報告されています。
このシステムがなければ、このように学童保育の効果をすぐに把握することはできません。恐らく、通常は施策の効果を分析する場合、市が子どもや保護者にアンケートをとり、かつ学童保育を利用していない子どもと比較検証し、やっと分析が始まります。
しかも、利用している子のアンケートはすぐに取れても、利用していない子のものを取るのは難しく、仮に取れたとしても家庭の経済状況や生活状況との紐付けや、その後の経年変化を追っていくことは困難です。
つまり、このシステムの存在は、単に子どもの情報を集めて管理しているものではなく、エビデンス(科学的根拠)に基づいた施策の実施や効果の検証を、低コストかつスピーディーに行うことを助ける、非常に貴重なものだと言えます。
◆箕面市で先進的なシステムが導入された背景
本来、公的資金を活用する以上、その分配先は慎重に見極め、根拠をもって決定していくことが必要です。しかし、そのような例は日本ではまだ少なく、箕面市の挑戦は画期的なものだと感じます。
では、なぜこのようなシステム運用が箕面市では可能なのでしょうか? もちろん市長の力や教育行政の方針に拠るところが大きいのですが、システムを作るだけでなく、システムを活用する組織体制を作っているところにあるのではないかと考えています。
同市では、システム運用や様々な施策を展開するにあたり、「子どもに関すること全て」を教育委員会に一元化する組織体制を作っています。 これにより、妊娠・出産から中学卒業後の進学支援まで他部署との連携をスムーズにし、切れ目のない支援を実現することが可能です。
これまでの箕面市は他の自治体と同じように、例えば、保健師さんは未就学児やその保護者の情報をもっていますが、管轄は福祉部局になるため、小学校を管轄する教育委員会とは組織が異なり、その連携には壁がありました。
同じく虐待児童への対応や児童手当・児童扶養手当等の現金給付施策、保育所の管理等を行うのも福祉部局で、学齢期の子どもの居場所である学校や学童とは別組織となり、せっかくの施策がバラバラに行われている背景がありました。
これらを一元化すること、そしてそのハブとなる「子ども成長見守り室」を設置することは、組織の壁を取り払い、連携のとれた有効な施策展開を可能にします。
◆「情報と支援をつなげる」ことが最大の課題
最後に、システムの活用目的について箕面市は次のように言っています。
“子どもの学力や非認知能力等の状況を組み合わせることで、学習や学校のみならず、日常生活においても困難を抱える子どもを早期に発見し、その課題に対する支援を適切かつ速やかに行うこと”
「子どもに関わる人は実は多い。ただし、色んな人の情報や支援につながりがない。」それこそが子どもの貧困支援の重大な課題だと感じます。
このシステムはそのつながりを作る重要な役割を果たし、支援を“対処から予防”に変え得る可能性を秘めているものだと感じました。(代表理事/奥野慧)
毎月の活動説明会で、子どもの貧困・教育格差の現状や、CFCの活動内容等について詳しくお伝えしています。
日本の子どもの貧困の現状や、CFCの活動をより詳しく知りたい方は、ぜひご参加ください。
【参考】
・箕面市(2017年3月)「子供の貧困対策支援システムの在り方と運用方法に関する実証研究報告書」第1章および第2章、第3章。
・日本財団(2017年11月)「家庭の経済格差と子どもの認知・非認知能力格差の関係分析(速報版)」。