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格差の存在は『当然』? ―子どもの権利条約から子どもの貧困を考える

先日、全国の公立小中学校の保護者7,400人を対象に「学校教育に対する保護者の意識調査」が実施されました。

その調査において、「所得の多い家庭の子どものほうが、よりよい教育を受けられる傾向」について「当然だ」「やむをえない」と答えた人は62.3%となり、過去4回の調査で初めて6割を超えたことが報じられました。

私はこの傾向を、非常に危機的なものと感じています。

図1 教育格差に対する意識(ベネッセ教育総合研究所(2018)よりCFC作成)

◆条約で定められた日本の子どもたちの「権利」

昨今、「子どもの貧困」として取り上げられる食、教育、生活環境などにまつわる問題は、等しく「子どもの権利のはく奪」という問題であると捉えることができます。

では、「子どもの権利」とは何でしょうか?

子どもたちはその出自に関わらず、社会の中で守られながら、健康に安心して育つ権利を持っています。その権利を国際的に保障するため、1989年の国連総会で「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」が定められました。

「子どもの権利条約」は以下の4つの柱からなっています。

・生きる権利:子どもたちは健康に生まれ、安全な水や十分な栄養を得、健やかに成長する権利を持つ。 
・守られる権利:子どもたちは、あらゆる種類の差別や虐待、搾取から守られる。
・育つ権利:子どもたちは教育を受ける権利を持つ。休んだり遊んだりすること、様々な情報を得、自分の考えや信じることが守られる。
・参加する権利:子どもたちは、自分に関係のある事柄について自由に意見を表したり、集まってグループを作ったり、活動することができる。

また、第2条には「差別の禁止」が謳われています。締結国は、子ども自身またその保護者の、人種や言語、宗教、社会的身分や財産などの差別なく、すべての子どもに平等に権利を認め、その権利を守る責任を負っています。

日本はこの条約を1994年に批准しました。各地方自治体では子どもの権利に関する条例が制定されるなどしており、1999年に「子ども条例」を制定した大阪府箕面市では、子ども支援のデータベース作りが進むなど先駆的な事例も出てきています。(「日本最先端!『子どもの貧困対策支援システム』とは?」参照)

◆日本で子どもの権利は十分に保障されているか

しかし、日本に生きるすべての子どもたちがこの権利を十分に保障されているでしょうか。

貧困問題について数多くの研究に取り組み、「子どもの貧困」に関しても多くの提言をしている阿部彩氏は、あるレポートにおいて「『公正』な格差と『不公正』な格差はあるか」という問題提起をしました。

貧困の世代間継承には様々な経路(人種、IQ、職業、健康、教育に対する意識や財産など)があり、それぞれの経路が世代間継承にどれほどの影響を与えているかは未解明な部分も多くあります。

しかし、このレポートから読み取れることは、この社会で生活している人々の様々な背景を鑑みても「正しい格差」「許容できる格差」と言い切れるものはないということです。

重要なのは、格差を生みだす経路があるのならば、それを一つでも多く取り除けるように努力していくこと。先に挙げた条約に照らして考えても、格差の容認は、大人が一方的に子どもの権利を無視することにつながります。

子どもにとって生きやすい社会は、大人にとってもよい社会であるはずです。教育格差の問題に限らず、子どもたちの成長過程において現れるあらゆる格差について、社会的責任の下で是正に向けた取り組みをさらに広げていくべきと考えます。(関西事務局員/有銘佑理)

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参考
・ベネッセ教育総合研究所(2018)「学校教育に対する保護者の意識調査2018」。
・朝日新聞デジタル(2018)「教育格差『当然』『やむをえない』6割超 保護者に調査」2018年4月5日アクセス。
・日本ユニセフ協会(発行年不明)「子どもの権利条約」2018年4月5日アクセス。
・特定非営利活動法人子どもの権利条約総合研究所(2014)子どもの権利条例等を制定する自治体一覧」2018年4月5日アクセス。
・阿部彩(2012)「『貧困の連鎖』の経路: 『公正』な格差と『不公正』な格差はあるか」 2018年4月5日アクセス。