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「貧困が子どもの脳に与える影響」を乗り越えることはできるのか?

家庭の経済格差が学力格差を生んでいることはCFCもホームページ等で紹介していますが、これは海外でも同様に問題となっています。

そして近年では、貧困と脳の関係についての研究も行われており、貧困が脳に何らかの影響を与えているとみられるものの、教育や社会的支援によって克服することができると報告されています。

◆貧困が子どもの脳に影響を与える?

例えば、米国の医療誌「ジャマ・ペディアトリクス(JAMA Pediatrics)」の2015年の研究報告によると、言語や情報処理、感情、自己制御などに関連する脳の量は、貧困レベルが高くなるにしたがって通常より3~10%低い数値になり、テストの成績も低かったそうです。このことから、貧困家庭の子どもの成績が低い傾向は、脳の発達度の違いにより説明できる可能性があるとしています。※1

同じく2015年、英国の科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)」掲載の研究では、子どもの脳の表面積は所得水準によって差異がみられ、その差が最も顕著に現れたのは言語活動や思考・感情、行動、空間認識をつかさどる領域であることが確認されたそうです。※2

◆学びの機会や環境の違いが脳の発達に直結する

しかし、この結果を見て悲観的になる必要はありません。その理由として、2つポイントを挙げたいと思います。

1つ目は、いずれの研究においても貧困と脳の発達に「因果関係」があるとは認めていないことです。

・貧困に関連する問題(ストレス、(脳の成長に寄与する)刺激が少ないことや栄養不足など)が、脳の構造に影響を及ぼす可能性もある※1

・(栄養、子どもへのケア、教育などが)より豊富な状況下では、提供されるリソースによって脳の『配線』が助けられていると推測することは、理にかなっているように思われる※3

つまり、お金がないことが脳に影響を与えるのではなく、学びの機会や環境の違いが脳の発達に関係がありそうだと考察しているのです。実際、2015年の米国学術誌「サイコロジカル・サイエンス(Psychological Science) 」では、家庭の所得に関わらず、脳皮質の薄い子どもに成績が低い傾向があった、と報告されています。※4

勉強する子ども

◆学びの機会や周囲のサポート環境があれば、脳は変わることができる

2つ目は、脳は生涯を通し状況に応じて変化できるということです。

1つ目のポイントで挙げたような学びの機会や周囲のサポート環境があれば、脳は良い刺激を受けて変わることができるのです。研究者らも次のように述べています。

・早期に対処すれば高い効果が得られ、費用効率もよい。十分な栄養、教育や社会活動、ストレスなく一緒に過ごしてくれる保護者が必要※5

・解決策は、給食の改善、意欲をおこさせる指導、子どもを後押しする地域社会の取り組みなどいずれも手の届く範囲にあるもの※3

このように、貧困や子どもの成長における教育や社会環境の力は、科学的な側面からもその役割が小さくないことがわかります。もちろん、海外とは状況が異なるため、これらの研究と同様のことが日本に当てはまるのかは慎重に考えなければいけません。しかし、子どもの貧困の課題を抱える日本においても、この研究結果は示唆に富むものだと言えるのではないでしょうか。

CFCでも、皆さまのご協力や自治体との協働などを通して、子どもたちへ学びの機会を提供し、社会全体で支えていく環境を作っていきたいと考えています。(関西事務局員/川瀬智子)

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参考
※1 Seth D. Pollak et al.(2015)"Association of Child Poverty, Brain Development, and Academic Achievement" JAMA Pediatrics, 169(9), 822-829.
※2 Elizabeth R Sowell et al.(2015)"Family income, parental education and brain structure in children and adolescents" Nature Neuroscience, 18(5), 773–778.
※3 AFP BB NEWS(2015年3月31日)「子どもの貧困、脳の発達に影響 米研究」2018年6月4日アクセス。
※4 Allyson P. Mackey(2015)"Neuroanatomical Correlates of the Income Achievement Gap" Psychological Science, 26, 925–933.
※5 HEALTH PRESS(2015年7月31日)「貧困が子どもの学力だけでなく脳の発達にも悪影響があると判明」2018年6月4日アクセス。