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映画「万引き家族」から改めて子どもの貧困を考える

家族ぐるみで犯罪を繰り返す家族の日常を描いた『万引き家族』。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、注目度も高いため、既に見られた方も多いと思います。僕自身は、この映画を見て改めて日本の貧困について深く考えさせられました。

◆貧困家庭の実情を描く映画

本作は、東京の下町に暮らす日雇い労働者の夫とクリーニング店でパートをする妻、風俗店で小遣いを稼ぐ女、万引きを繰り返す息子、そして家主である年金受給者の祖母の5人家族の物語です。

家族と言っても5人に血縁関係はなく、いわば犯罪でつながった家族。しかし、次第にこの家族がもつ温かさや繋がりに惹かれていく自分がいて、その生き方を肯定すらしてしまう、そんな不思議な物語です。

物語の中では、仕事中に怪我をしても労災が出ず、給与保証もないため困り果てる描写があり、また、妻も働いている会社の経営が傾くと、真っ先にリストラの対象とされてしまうくだりがあります。

不安定就労、機能しないセーフティネット、社会からの孤立・疎外等、『万引き家族』で描かれているものは、まさに日本の現実であり、貧困家庭の実情だと感じます。

◆貧困家族を描いた動機「人々はなぜ年金不正受給にそこまで怒ったのか」

是枝監督は、韓国の新聞社へのインタビューで、この貧困家族のドラマを描いた動機を次のように語っています。

・(日本で年金の不正受給事件が厳しく糾弾されたことについて)「人々はなぜこのような軽犯罪にそこまで怒ったのか」
・(経済不況による人々の“格差化”が進行していることに触れ、)「政府は貧困層を助ける代わりに失敗者として烙印を押し、貧困を個人の責任として処理している。映画の中の家族がその代表的な例だ」

映画を見て一番感じたことは、我々もよく言う「日本の貧困は見えない」という点です。この映画に出てくる子どもたちも、万引きで食料や衣類を手に入れ、他者からは一見“普通”だと見えてしまうかもしれません。

見えない貧困はどのようしたら見えるのか?そんな普段からもっている問いを、映画を見ながら考えていました。そしてこの問いは、是枝監督が映画を作った動機でもある「人々はなぜこのような軽犯罪(年金不正受給)にそこまで怒ったのか」という問いと通じるものがあると感じます。

◆権利が平等であることを意識しない日本人

「日本人は公正にこだわり平等に無頓着である」―― これは、筑波大学学長補佐で、実業家の落合陽一氏の発言です。彼は、『日本再興戦略』(幻冬舎)という著書の中で次のように言っています。

(日本人は)ゲームがフェアであることは意識しますが、権利が平等であることは意識しません。…江戸時代の士農工商という考え方はそもそも権利や地位の平等に反しています。それなのに当時の社会は士農工商に対して違和感をさほど抱いていなかったはずです。つまり、ゲーム盤の上の不公正、不公平な裁きは気になるくせに、士農工商のような不平等問題にはあまり目を向けないのです。

確かに、自らが払った税金が不正に利用されたことへのバッシングはあっても、その当事者が貧困状態にあったこと、それを助ける手立てがなかったことに対するバッシングはあまり聞きません。

これは、教育の平等を謳うCFCにとっても考えさせられるテーマです。ぜひ皆さんもこの映画を見ながら、目に見えにくい日本の貧困について、また公正と平等について考えてみてほしいと思います。(奥野慧/代表理事)

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【参考・引用】
『万引き家族』公式サイト
・Wezzy(2018/5/22付)『是枝裕和監督が描いてきた「見えない家族」とナショナリズムへの問題意識」』2018/6/20アクセス。
・落合陽一(2018)『日本再興戦略』幻冬舎。