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韓国の子どもの貧困対策の実情

先日、他の教育支援団体が主催する韓国の子どもの貧困対策の視察に合流させてもらう機会がありましたので、そこでの学びをシェアしたいと思います。

韓国での訪問先は、子どもの虐待に関する対応や乳幼児支援を行う公民連携型の福祉施設、NPOが運営するフリースクール、NPOによる貧困世帯の子どもの学習支援拠点、子どもの貧困政策の調査を行う大学、公設の青少年職業体験施設など、幅広く視察をさせていただきました。

■韓国の子どもをめぐる社会背景

まず、大前提となる韓国の社会背景ですが、韓国の子どもの相対的貧困率は2015年で6.9%というデータが出ており、日本と比べて低いです。2006年の子どもの相対的貧困率は10.1%でしたが、減少しているようです。

減少の要因は、貧困状態にある若者が大人になって結婚をしたり、子どもを産んだりすることが少なくなったこと等という意見もありましたが、今回の視察では定かなことはわからず、一概に政策による効果だとは言えません。

なお、今回訪問したソウル市内の地域は、日本でいう生活保護受給世帯にあたる家庭が全体の30%以上を占める地域でしたので、韓国の中でもかなり厳しい地域だと言えます。

また、韓国では大学進学率が8割を超えており、入試の競争が激しいことも特徴です。これにより、日本以上に学習塾や習い事等の学校外教育がさかんで、同時に所得格差による学校外教育の格差が顕著に生まれています。

私が今回の韓国視察を通じて、特に注目したのは次の3点です。

(1)子どもの情報連携

まず、韓国では日本よりも、行政の部署間、行政とNPO間等で、支援が必要な子どもの情報の連携ができており、子どもを必要な支援機関に繋げやすい環境にあることが印象に残りました。また、マイナンバー制度(住民登録制度)と電子化社会の連携により、支援を必要とする家庭の情報を事前把握して、アウトリーチがしやすい環境が整備されている点も特徴的でした。

特に日本では、「個人情報の壁」が厚く、同じ自治体の部署間でも子どもの情報を共有することが困難です。貧困世帯の子どもたちほど、課題は複合的であるため、行政の一部署だけで対応することは難しい状況です。

福祉関連の部署と教育関連の部署が連携したり、民間団体に繋いだりして、適切な支援を行うべきですが、なかなかそのようにはいかない部分が大きいです(ただし、韓国の個人情報の壁が薄いことは、単に個人情報保護の制度が日本と比べて緩い部分あるとのことで、今後整備進むことで、制約も大きくなる可能性があるとの話もありました)。

日本では、今後、個人情報が目的の範囲外で使われないよう適切に保護しつつ、目的の範囲内であれば、行政の部署等の支援機関の間でも情報連携ができるような制度にすることが必要かと思います。

同時に、支援が必要な方ほど、自分で支援に申し込むことが難しい状況にあるため、「申込制」ではなく、支援が必要な家庭の情報の「事前把握」ができる環境の整備を日本でも今後さらに進めていくべきだと感じました。

(2)学校外教育バウチャー(=スタディクーポン)制度の定着

日本以上に学校外教育の格差が大きい韓国では、地域によっては、行政や地域の学習塾の連合体等によって、貧困世帯の子どもに対して学校外教育バウチャー(=スタディクーポン)が提供されている事例がありました。原資は公的資金、民間資金いずれもあるようです。

今回訪問した複数の地域で、学校外教育バウチャー(=スタディクーポン)制度の存在について、質問を投げかけたところ、いずれの地域においても、支援者は制度の存在を認知していました。日本よりも韓国の方が学校外教育バウチャー(=スタディクーポン)制度が社会に定着しているようにも思えました。

日本では、学校外教育バウチャー(=スタディクーポン)事業を一定の規模で実施している民間団体はCFCのみです。制度を導入する自治体も、指で数えることができる程度ですので、日本での制度の認知度はまだまだ低い状況です。

また、貧困世帯の子どもの学習支援を行う拠点では、ボランティア等の支援員が学習意欲の低い子どもにしっかり寄り添い、子どもの学習意欲が向上したら、クーポンを使って民間の学習塾に繋ぐ、というケースの報告もあり、福祉と教育の良い連携が取れている事例だと感じました。

(3)未就学児及び家族に対する包括的支援事業(ドリームスタート)の可能性

最後に、特筆すべきは、「ドリームスタート」という、0歳~12歳の子どもと親・家族に対する支援政策です。

このプログラムは、アメリカの「ヘッドスタート」、イギリスの「シュアスタート」をモデルに、2004年に民間事業として試行実施(当時の名称は「WEスタート」)され、効果検証を行った後、2007年より韓国の全ての自治体で政府が政策として導入しています。

プログラムの大枠は、①健康支援 ②保育支援 ③教育支援 ④家族支援を軸にしています。一つ一つの支援は、日本でも既に行われているものも多いですが、特徴はこれらの異分野の支援を「包括的に実施する」ということです。また、看護師・保育士・社会福祉士といった専門職が一つのチームとなって実施すること、行政と民間団体、地域コミュニティが緊密な連携をとりながら実施することなども特徴的でした。

試行実施プログラムの効果検証では、未就学児の健康状態や幼児の社会性、小学生の問題行動、学校適応力等の改善といった調査結果がでているようです。貧困に陥るリスクの高い親や子ども、その家族に対して早期介入することによって、貧困の世代間連鎖を根本から解決できる可能性のある政策であると感じました。

もちろん、日本と韓国では社会的・文化的な背景も異なることから、海外の事例をそのまま日本に持ってこればいいというものではありませんが、それでもドリームスタートを構成する各要素は、十分に参考になるものだと感じました。

まだまだ書ききれないこともありますが、以上の通り、視察での学びをまとめました。特に、支援分野や団体間を超えた連携が非常に重要であることを改めて痛感しました。同時に、今足りないものは、支援に必要な資源(ヒト、カネ等)もそうですが、団体間をつなぐ「コーディネート機能」であることも感じています。

そのような中で、中長期的にCFCが果たすべき役割についても、改めて問い直す良い機会になったと感じています。(代表理事/今井悠介)

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