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夢への道のり~スタディクーポンを利用して学習に励む子どものストーリー

CFCは、西日本地域でも、経済的に苦しい家庭の子どもたちに支援を続けている。「経済的な理由で、子どもたちに機会を失わせることがあってはならない」そんな多くの支援者の思いが、子どもたちにしっかりと届いている。

支援に感謝の気持ちを抱きながら、希望を捨てることなく、懸命に努力を重ねる子どもたちがいる。クーポンを利用した子どもたちのなかには、医師になることを志す高校生の姿もあった。

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公営住宅の一室。「うーん、難しいな。こういう解き方はどうやろ」。高校1年、中村由美さん(仮名・16歳)が3つ上の兄に、数学の問題の解き方を尋ねると、兄が親身になって考え、そう答えてくれた。

さらに、隣の部屋に入り、4つ上の兄に尋ねた。「なんでこんなんもでけへんのや」といたずらっぽく笑いながら、図をササっと書き、解法を教えてくれた。「問題の解き方が分からないときは、兄を『はしご』するんです」と笑顔で話す。将来の夢は医者。志は高い。

◆父親の借金と母親のうつ病

生活は決して楽ではない。母子家庭で、2人の兄と母と祖母と、5人で暮らす。母は結婚後、父の実家に嫁いだが、しばらくして約1億円の借金が発覚。テーブルの上に大量の支払い請求書や借用書が積まれ、「頭が真っ白になった」。父の両親が経営に失敗して膨れ上がった借金だった。

母は、将来子どもたちに多額の借金を背負わせるわけにはいかないと、「あなた、私たち家族をとるか、両親をとるか、どっち」と迫った。父は親を選び、家族を捨てた。養育費も一切支払われないまま、母は子どもたちを連れ、路頭に迷った。

遠く離れた母子寮に住んだ。8畳一間の4人暮らし。母は食料品店のレジと介護ヘルパーの仕事をかけもちしながら、子ども3人を育てた。貧しいけれど、「子どもたちの幸せだけは」と必死だった。絵本、塗り絵、折り紙……。ゲームは買えないけれど、いつも家族一緒になって遊び、勉強もした。

その後、少しでも暮らしぶりを変えたくて、母は看護師を目指して、看護学校で勉強をし始めた。朝、子どもたちの学校へ行く支度をして、送り出してから看護学校へ行き、夕方に帰って、由美さんを保育所まで迎えに行き、夜はまた勉強をした。

そんなとき、これまでの無理がたたったのか、母は突然うつ病にかかった。寝たきりになり、部屋から出られなくなった。「子どものことは心配。でも、自分でできないことが苦しくてたまらない……」。部屋に入ってくる子どもたちを抱きしめてあげることしかできなかった。疎遠になっていた祖母の支えで生きていくのがやっとだった。

◆「周りの友人たちと同じように塾で勉強したい」

そんな母のこれまでの頑張りを由美さんは見ていた。夜中、台所から明かりが漏れてくるのに気付き、寝室からのぞき込むと、勉強をしている母の姿を目にしたことが、これまで何度もあった。「まだ小学校に入る前の頃でした。幼かったけど、母の頑張っている姿がすごく記憶に残っているんです」と振り返る。

小学校に上がると、本が大好きになった。図書室で借りた本は、6年間で約1,000冊。手提げ袋いっぱいに本を持って帰り、兄らと一緒になって読み漁った。新しいことを知ることが楽しくて、先生の話を聞いたり、実験をしたりするのが好きだった。夏休みの宿題は3日間で終わらせた。

中学3年になり、受験が近づいた。周囲の友達たちは塾に行き始めた。滑り止めの私立高校は受けられない。焦りばかりが募った。そんなとき、インターネットでCFCのクーポン利用者を募る知らせを見て、応募した。面接審査では、とても緊張したが「読書と勉強が大好きです」と必死に伝えた。

◆家事を手伝いながら必死に机に向かう日々

審査結果を通知する冊子が、自宅に届き、恐る恐る封を開けた。支援が受けられるとの通知が入っていた。「もっと勉強ができる」と、喜びと感謝の気持ちが同時にこみ上げてきた。早速、受験対策の通信講座を申し込んだ。「交通費や時間がもったいない。自分で勉強のペースは作れる」と塾は選ばなかった。

朝は5時に起きて約1時間半、夜は3時間半、家事を手伝いながら机に向かった。一番上の兄は自らの大学受験の勉強の手を止めて、解けない問題を教えてくれたこともあった。

受験の当日。小論文と面接がある方式の試験だったが、うまく答えられなかった。「あれだけ準備したのに、落ちたな……」。とぼとぼ歩いて家に帰った。次の試験を見据えて頭を切り替えるしかなかった。

合格発表の日。同級生と志望校まで合格者発表を見に行った。受験票と掲示板の合格者番号を見合わせた。「え、ある?信じられない」。本当に自分の番号か、3回確認を繰り返した。バス停で待っているとき、公衆電話から母に電話した。「合格!合格した!」。家に着くと、母と抱き合い、飛び上がって喜んだ。

◆夢は医療現場で働くこと

今も朝5時に起きて、目をこすりながら、すぐに机に向かう。約1時間勉強をしてから高校に行く。CFCのクーポンを利用しながら受講している通信講座は、学校の授業を先取りした内容。分からないときは兄が教えてくれる。母も少し元気になり、外に出られるようになった。

「私はお母さんの子どもに生まれてよかった。この家族でよかったなと思う。いつも一緒だし、誰も夢を否定せず、応援してくれる」。約3年前から生活保護を受け、ぎりぎりの生活が続く。でも、前に向かって進んでいると思える。

「お母さんが目指していた医療現場で働くこと、私が医者になって叶えたい。支援をし、応援してくださる方がいるから、その思いにも応えたいです」。夢を語る由美さんの目には希望の光が灯っていた。

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