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ハイリスクな子どもへのアプローチ (道中隆/関西国際大学教授)

CFCが2015年に発刊した「東日本大震災・被災地子ども教育白書2015」では、様々な専門家から、被災地の今後の課題や必要となる支援について論じていいただきました。

今回は、本白書に寄稿していただいた道中隆先生(関西国際大学教授)によるエッセイの一部(※)をご紹介します。道中先生は、厚労省社会保障審議会委員、内閣府子どもの貧困対策有識者会議構成員、大阪府子ども施策審議会特別委員などを歴任し、保健福祉の政策運営に携わっていらっしゃいます。ぜひご覧ください。

※全文はこちらから⇒「東日本大震災・被災地子ども教育白書2015」ダウンロード(3月31日まで)

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◆戦略的な子ども政策へ向けて

貧困と健康、学力、所得、幸福度といったアウトカムにつながる経路(path)については、解明されていない。貧困の世代間連鎖に関する研究は、親と子世代の所得や学歴等の経済的側面を説明する変数の移動状況を追跡する手法とパネル調査や生活保護受給者に対象を限定した調査方法とがある。

前者は、多数の標本数が得られる利点がある一方で、十分な数の「貧困」経験がある者を標本数として確保するのが難しいことや子ども時代の養育環境はあくまで推定値にすぎないという課題を抱える。後者は、前者と比べ十分な標本数を確保するのが難しいものの詳細な調査結果が得られるという利点がある。

子どもの貧困問題については、その要因をマクロ的に解明するとともに、ミクロ的にも教育や福祉プラクティスとして役立つ政策とは何か、貧困の連鎖を断ち切るためにはどのように対応するべきかを明らかにすることが焦眉の課題であり、優先度の高い政策と位置付けられる。
 
わが国のひとり親家庭の貧困率は、OECD諸国の中で突出しており、54.6%となっている。厚生労働省は、2009年から生活保護世帯の子どもが家庭学習に使う参考書や辞書などの購入費を生活保護費として支給することや学習塾などの学習支援費用を認めるなど、「貧困の連鎖」を食い止めようとする動きが生まれた。

親から子へと続く「貧困の連鎖」が懸念される中、政府は2014年8月、「子どもの貧困対策に関する大綱」を決定し、子どもの貧困率に加え、生活保護世帯の子どもの進学率や就職率など25の指標を示し、今後5年間で改善に向けて重点的に取り組む方針を掲げている。

貧困による教育環境への強い影響は、身心ともに健全な発育に強い影響を及ぼすと言われており剥奪される子どもの権利が回復困難となることが憂慮される。このような事態に対して、無関心であったり、手をこまねいているわけにはいかない。特に可及的な教育への影響は重要であり、こうしたレディネスはあとで取り返すのは難しい。そのためハイリスク層にある子どもへの積極的な介入政策が急がれる。
 
総論的な政策課題としては、以下の事項を視座に展開されなければならない。

(1)関連分野と協力した研究手法の開発が必要である。子どもの生育環境が成長後にも重要な影響を与えており、とりわけ被保護母子世帯においては世代間で貧困が連鎖している可能性が高い。

(2)貧困関連のブラックボックスには未解明の部分が多い。克服のために調査研究を継続し研究を蓄積する必要がある。そのうえで有効な支援政策、プログラム開発がなされるべきであるがその課題は少なくない。

(3)また教育の市場化、学校選択制、多様な学校・学校制度の導入など受給層には不利益な「教育格差」となっている。そのため家庭の社会経済状況と学力や学歴達成との関係に関する調査研究を行う必要がある。

(4)1990年代の日本社会の構造転換以降、子どもの格差、「差異」のすそ野の拡大、「不平等」への関心の高まりから子どもの政策ビジョンが要請されている。
 
子どもの貧困対策に関する政策は、子どもを権利主体として捉え直し、この白書のような地道な実態調査による研究結果を蓄積していき、それを踏まえたエビデンスに基づく政策が重要である。もう一つは、貧困という問題を明らかにし、社会として解決すべき課題であるという認識のもとに積極的に貧困解消に向けた政策を展開していくことである。

今後、子どもの貧困問題に関する政策的な示唆を得るためには、貧困にかかわる要因の調査研究を継続的に行うことが必要であり、そうした研究蓄積に裏付け(エビデンス)された戦略的な子ども政策への展開が急がれる。

※全文はこちらから⇒「東日本大震災・被災地子ども教育白書2015」ダウンロード(3月31日まで)

プロフィール
道中隆(関西国際大学学長補佐 教授)
1949年生まれ。大阪府立大学大学院修士、帝塚山大学大学院法学博士。大阪府、堺市など保健福祉の政策運営に携わる。厚労省社会保障審議会委員、内閣府子どもの貧困対策有識者会議構成員、大阪府子ども施策審議会特別委員などを歴任。著書に『生活保護と日本型ワーキングプア』(ミネルヴァ書房)、『貧困の世代間継承』(晃洋書房)など。

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