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経済困窮家庭の『受験の壁』

先日、こども家庭庁が、低所得家庭の高校3年生と中学3年生を対象に、大学受験や模擬試験の費用の補助を始める方針を決めました。

スタディクーポンを利用しているお子さんから「受験料がかさむので、複数校の受験ができない」という声を聞くことは多く、このような新しい方針には、政策の大きな進歩を感じます*1

その一方で、経済困窮家庭にとっての「受験」には、まだまだ多くのハードルが残されているとも感じています。

◆進学費用の壁

まず分かりやすく大きな障害となるのが、入学金や授業料の工面です。特に大学は初年度に、国公立で入学金が約28万円、授業料が約53万円、私立で入学金が約25万円、授業料が約93万円かかります*2

これらの費用は、入学前に1年分もしくは半期分の支払いを求められるため、貯金がない・少ない経済困窮家庭にとっては、このようなまとまったお金を捻出することが困難です。(厚労省の22年度国民生活基礎調査では、児童のいる世帯で9.2%が無貯金であることが分かっています。)

2020年からは、経済困窮家庭向けに「高等教育の修学支援新制度」(授業料等の減免と給付型奨学金)が始まりましたが、諸々の費用が全て無償化されるのは住民税非課税世帯*3くらいで、多くの経済困窮家庭は全額カバーされないのが実情です。

したがって、大学独自の猶予期間や減免制度等がなければ、多くの場合、奨学金や貸付を利用することになります。

◆奨学金の難しさ

最も一般的な奨学金としては、「日本学生支援機構(JASSO)」による貸与型奨学金があります*4。令和4年度は、有利子と無利子合わせて延べ約113万人が受給しているとのことで、規模の大きさが伺えます。(詳細は割愛しますが、この他にも国の教育ローンや自治体による貸付制度など、様々な制度があります。)

ただ、社会に出る前にローンを抱えるというのは本人にとって、進学に対する大きな心理的ハードルになります。特に、既にローンで苦労されている経済困窮家庭には「これ以上は借金できない・したくない」と考えていらっしゃる方が少なくありません。

そこで大切なのが、給付型奨学金の存在です。最近は、自治体や企業・財団等が提供する給付型の奨学金制度も増えているように感じます。

ただ、こちらも万能ではなく、全額がカバーされるわけではなかったり、情報ギャップの問題が残ります。政府が大々的に広告を出している前述の「高等教育の修学支援新制度」ですら、要件に当てはまっても制度を知らない人が少なくないことも明らかになっています*5。CFCにも、大学生への給付型奨学金制度を設けている企業・団体さんから、周知が上手くいっていないと相談をいただくことがあります。

「制度を探せばある」と言うのは簡単ですが、勉強しながら、実際に受けられるか分からない奨学金の情報収集や申請手続きを行うのは時間的にも精神的にも負担が大きく、経済的に何も困難がない家庭と比べれば、大きなハンデがあると感じます。

◆狭められる進学先の選択肢

さらに、直接的にかかる進学費用の面がクリアできたとしても、以下のような事例もあります。

「私立には行けない。浪人はできない。絶対に落ちられないのでレベルを下げて受験する」
「奨学金に成績要件があるから、良い成績が取れそうな範囲で進学先を選ぶ」
「家族に介護が必要。家から通える範囲で受験する」
「授業料減免を受けられる特待生になるため、レベルを下げて受験する」

つまり、進学する・しないの選択だけでなく、進学先の選択肢が限られてしまうという問題です。「学歴」だけでなく「学校歴」が重視される日本社会においては、このような判断も人生を大きく左右するものだと思います。

先日、数年前にスタディクーポンを利用した卒業生のお話を聞く機会がありました。彼には夢があり、その夢の実現には大学進学が必要でしたが、自宅から通えない国立大学の二次試験を受けたり、1人暮らしをしたり、浪人生活を送ったりする余裕がなかったため、最終的に彼は大学進学を断念しました。

今、彼は自身の経験を生かした仕事をしながら、自立した生活を送っています。逆境をバネにする彼の生き方には本当に勇気をもらいますが、支援団体の人間としては、彼の事例をただの美談にしてはいけないとも感じます。

12月も終盤となり、中学3年生・高校3年生の子どもたちには、受験の時期が迫ってきています。今クーポンを利用している子どもたち一人ひとりが自分の目標に向かって全力を尽くせるようお手伝いしていくとともに、これから受験を迎える全ての子どもたちが思いっきり学んでいける社会を目指して、これからも制度の拡充等を訴えていきたいと考えています。

子どもたちの多様な学びをご支援ください

勉強する子ども

毎年CFCには定員を上回る子どもたちから支援の応募が寄せられますが、寄付金が十分に集まっておらず、多くの子どもたちが落選せざるを得ません。今年度も600名以上の子どもたちが落選してしまいました。

ひとりでも多くの子どもたちに多様な学びの機会を届けるため、皆さまの温かいご支援、ご協力をお願いいたします。

>>寄付の詳細・お申込みはこちら

*1 スタディクーポンは塾で受ける場合の模擬試験にも利用可能となっています。
*2 文部科学省「私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」参照。
*3 自治体や扶養人数にもよるので一概に言えませんが、例えば生活保護世帯や世帯年収200万円未満のひとり親家庭等。
*4 JASSOには、貸与型の他に給付型奨学金(令和4年度は34万人が受給、高等教育の修学支援制度の一部)もありますが、貸与型と比べて小規模であることと、説明の簡略化のため、ここでは貸与型に限って記載。
*5 小林雅之、濱中義隆(2022)「修学支援新制度の効果検証」『桜美林大学研究紀要 総合人間科学研究』第2号,52-68頁。