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学ぶ意欲の心理学(書籍紹介)

2挙手

子どもの貧困問題と関わるようになって、現在最も興味をもっているのが、本書のタイトルでもある「学習意欲」なのですが、簡単に読めてかつ俗っぽくない教育心理学を知ることができる本はなかなか少なく、少し古いのですが、本書を手にとってみました。

4部構成のうち、まず第1章では広く動機付けの心理学について、その理論の枠組みと変遷、近年の研究について教えてくれます(14年前ですが)。そして第2章からは、教育心理学を批判的に捉えている、精神科医や教育社会学者との討論が掲載されています。

個人的に討論形式の本はあまり面白さがわからなかったのですが、この本の討論は違う立場の者が真っ向から意見を戦わせているので、なかなか読み応えがあります。

◆「内発的動機付け」と「外発的動機付け」どちらが大切か

具体的には、「内発的動機付け」と「外発的動機付け」のどちらが重要か、今の教育現場で必要かという議論が行われています。

「内発的」とは、その勉強がしたいからする、面白いからするというような、学習を自己の目的としてやっている状態です。対して、「外発的」は、怒られないためとか、将来の役に立つから等、学習を手段として考えているものです。著者としては、どちらも必要、また状況によって異なるという論を展開していますが、どちらかというと内発的動機付けを重視している考え方なので、外発論者の精神科医との議論は興味深いです。

◆子ども一人ひとりにあった教育を

そして第3章は、教育社会学者で、現オックスフォード大学教授の苅谷さんが著者と討論をしながら、現在の教育方針・政策を批判しています。僕が特に共感したのは、イギリスの社会学者バジル・バーンスティンが言っている「目に見える教育方法」と「目に見えない教育方法」という話で、生きる力とか総合的な学習の時間(目に見えない教育方法)は、家庭の文化的な背景によって得られるものが違ってくるという問題を指摘している点です。

すなわち、文化的資本が乏しいと言われる貧困家庭の子どもは、このような学習方法だと不利になる可能性を指摘しています。例えば、算数の計算や漢字の書き取りなどのいわゆる詰め込み教育は、当時批判されることが多かったのですが、一方で評価を得るためには何をすれば良いかはっきりしているし、どんな子どもも結果は平等という点で、その重要さは評価すべきと説きます。本書にはこのような批判的な意見も載っていますが、一方で心理学は個人にスポットを当てているという点でとても重要である点も指摘されています。

特に僕らのような団体が行う教育支援は、多数の子どもを対象としている活動が少ないため、子ども全体を捉えて効果測定をすることに加え、個人個人を見ていくことも重要だと感じています。その時に教育心理学はとても参考になる学問ではないかと思います。

本書は入門書のため、概要のみしか知ることはできませんが、教育だけではなく職場での動機付け理論についても触れていますので、興味のある方はぜひご一読ください。(奥野慧・代表理事)

▼本の詳細
・「学ぶ意欲の心理学」(2001年9月、PHP研究所)

・著者:市川 伸一
1953年東京生まれ。東京大学文学部心理学専修課程卒業。文学博士。埼玉大学、東京工業大学を経て、現在、東京大学教育学研究科教授。日本教育心理学会理事長、文部科学省中央教育審議会臨時委員等を務める。専攻は認知心理学・教育心理学で、認知理論と教育実践を結ぶ仕事に関心がある。

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