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夏休みに拡大する、子どもの教育格差と体験格差

8月となり、子どもたちも夏休みを迎えています。

休校期間となる夏休みは、子どもたちにとって様々な「格差」が開きやすい時期です。学期中は学校のおかげで無償・安価で手間なくできていたことでも、家庭で担うにはお金や労力がかかるからです。

特に近ごろメディアなどで取り上げられるようになったのは、夏休みの「食」の格差です。子ども食堂やフードバンクなどの取り組みを目にする方も増えてきたのではないでしょうか。CFCでも、ご家庭への情報周知等の面で連携したいと他団体さんからお声がけをいただくことが増えてきました。

ただ、夏休みに拡大するのは、「食」の格差だけではありません。今回は、夏休み中の「学習」と「体験」の格差について詳しくご紹介します。

1.学習の格差

私たちの元には毎年、経済困窮家庭のお子さんから夏休み中の学習について、以下のような声が多く寄せられます。

・「塾には通っていたが、まとまったお金が必要になる夏期講習には参加できなかった」
・「受験生だが、夏休みが明けたときに塾に通っていた子との差に焦りを感じた」

厚労省の22年度国民生活基礎調査では、児童のいる世帯で9.2%が無貯金であることが分かっており、経済困窮家庭がまとまった金額の支出に困難を感じるのも無理はありません。

ただ、実は夏休みの学習格差に関するデータはほとんど存在していません。とはいえ、夏休みを「学校が機能しない時期」と捉えると、災害時やコロナ禍での状況が夏休みと近い状況を生み出していると考えられ、参考になります。

例えば、調査では、コロナ禍の臨時休校中、子どもの学習に以下のような影響があったことが分かっています。 

・年収の低い家庭で特に勉強時間の減少が著しかった。経済状況の良い子どもは、学校外での勉強時間を増やすことによって、学校での勉強時間の減少を穴埋めした。※1

・家庭学習について、社会経済的に厳しい家庭の子どもであるほど、「学校の教科書の予習・復習」「学習塾教材」を使って勉強ができていない。 ※2

つまり、休校で学習の機会が失われたということは、全ての子どもたちに共通したことでしたが、その中でも学校以外の場や、教科書以外のツールで学習できない子どもは置きざりになってしまったということです。夏休みは、この状況と近いことが起きている可能性があります。

2.体験の格差

もう一つがスポーツ、文化活動や自然体験といった子どもの「体験」の格差です。

CFC代表・今井の著書「体験格差」(講談社現代新書)では、休日の体験格差を大きく「自然体験」、「社会体験」(ボランティア、職業体験など)、「文化的体験」(旅行、地域行事など)に分類し、以下のことを明らかにしています。

・自然体験は、世帯収入によって体験格差が生じていた(約1.7倍)。これは地方と都市部での格差よりも大きかった。山や海は入場料もかからないことも多いが、現実的には交通費・宿泊費・装備費などが負担となってしまう。
 
・旅行に関して、世帯収入によって体験格差があった(約1.8倍)。旅行は娯楽的な側面もあるが、教育的な側面もあり、近年では入試制度などで海外を含めた場所での経験を問われる局面も増えている。
 
・無料で参加できる地域の行事に関しても、世帯収入によって体験格差があった(約1.3倍)。経済困窮家庭は、孤立によって情報が得られなかったり、時間の制約で参加が難しい可能性がある。

このような子どもたちの体験機会の保障は、残念ながら現在の日本社会では、生活や学習と比べて優先順位が低くなっていますが、子どもたちには非常に重要です。

まず、子どもの体験は、非認知能力、文化資本、社会関係資本を媒介として、将来の社会経済的地位と結びついており、子どもの貧困の世代間連鎖を断ち切るという観点から、重要な役割を担っている可能性があります。

それだけではありません。例えば、石巻市の子ども支援団体『NPO法人TEDIC』の鈴木平さんは、経済困窮家庭の子どもたちと向き合う中で、子どもの余暇活動に対して、書籍「体験格差」で以下のように述べていました。

『昔の「楽しい思い出」が、しんどい日常に戻らなくてはいけないときにも、もう少し頑張ってみようというエネルギーになる』

今この記事を読んでくださっている方の中にも、昔の楽しい思い出を心の糧にしている方は少なくないのではないでしょうか。すべての子どもたちが健やかに成長していくためには、つらいとき心の励みになるような体験の思い出が得られることも、とても大切だと感じます。

物価高と酷暑の中で迎えた今年の夏休み

今回、夏休みには「食」の格差だけでなく、「学習」および「体験」の格差があることを紹介させていただきました。

特に今年は、物価高騰が続く中での夏休みとなりました。なかなか賃上げがされない経済困窮家庭では、なす術がなく、私たちの調査では8割近いご家庭が「子どもの学習にかかる費用を減らした」と回答しています。また酷暑の中、電気代を不安視されているご家庭の声も届いています。

これ以上、夏休みに子どもたちの格差が拡大しないよう、そして、子どもたち一人ひとりが自分の望む夏休みを過ごせるように、引き続き、サポートに全力を尽くしてまいります。(東京事務局/山本雅)

物価高から子どもたちの未来を守る
「夏の教育募金」にご協力お願いします

CFCでは、この13年で6,000名以上の子どもたちにスタディクーポンを届けてきました。その一方で、今年度の新規クーポン利用者募集では、定員を上回る応募が寄せられ、応募者の半数以下にしか支援を届けることができませんでした。

この状況を受け、CFCでは「夏の募金」を開始します。一人でも多くの子どもたちに支援を届けるため、ご協力をお願いいたします。

>>寄付の詳細・お申込みはこちら


※1 日本財団・三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング(2021)「コロナ禍が教育格差にもたらす影響調査-調査レポート-」
※2 ベネッセ教育総合研究所(2022)「コロナ禍における学びの実態―中学生 ・ 高校生の調査にみる休校の影響」